VR療法で物が捨てられるように!
実験では、ためこみ症と診断されている55歳以上の成人男女9名を対象としました。
VR空間を作るにあたって、それぞれの参加者には自宅の最も散らかっている部屋のビデオおよび写真の撮影をしてもらいます。
チームはこの動画および静止画をもとに、参加者の部屋を忠実に再現した3Dの仮想空間を作成しました。
参加者はVRヘッドセットを装着して仮想上の自室に入り、ハンドコントローラーを使って自室に置いてある物を持ち上げたり、動かす方法を訓練します。
そして参加者は、VR療法の他に、従来の認知行動療法(CBT)とワークショップも取り入れた16週間の治療セッションを行いました。
VR療法では、仮想上の自室にある物を「ゴミ箱」「リサイクル」「寄付行きの箱」のどれかに入れるよう指示されます。
このとき、選んだアイテムを保管する選択肢はありません。
ライラ氏は「VR空間でのゴミ捨ては、患者が頭の中で捨てることをイメージする”想像上のゴミ捨て”と、自室にあるものを本当に捨てる”実際上のゴミ捨て”の橋渡しをしてくれる」と説明。
「想像上のゴミ捨ては、一部の人にとって十分にリアルに感じられないかもしれませんが、VR空間でそれをリアルに体験することで、本当にゴミが捨てやすくなると考えられる」と続けます。
参加者は期間中、VR空間でのゴミ捨ての主観的苦痛を0〜10段階で評価し、また宿題として家に帰ったら、VR内で「ゴミ箱」に捨てた物を一つだけ選んで実際に捨てるよう指示されました。
そして16週間の治療セッションの結果、参加者9名中7名で物を捨てることの心理的苦痛が低下し、ためこみ症の症状が改善されたのです。
臨床医が視覚的評価をもとに、治療前後での部屋の散らかり具合を調べたところ、この7名では平均25%も物が減っていました。
これはVR空間でのゴミ捨て練習に大きな治療効果が期待できることを示す成果です。
また大切なポイントとして、VRの継続的な使用による健康への悪影響は認められませんでした。
参加者がVR映像に不快感を示したり、気分が悪くなることはなく、VRが心理療法として安全に使用できることが示されています。
一方でチームは、VR療法に参加した被験者の数が少ない点で限界があり、今後はより大規模なサンプルサイズで同様の実験を行いたいと考えています。