かゆみの原因は「黄色ブドウ球菌」だった
黄色ブドウ球菌(学名:Staphylococcus aureus)とは、ぶどうの房のように集まっている細菌です。
この黄色ブドウ球菌は、人間や動物の皮膚、腸管、埃の中などで検出される身近な存在であり、表皮感染症や食中毒などを起こす原因として知られています。
そして今回、チウ氏ら研究チームは、黄色ブドウ球菌を用いたマウス実験を行う中で、かゆみとの関連性を明らかにしました。
研究チームが、黄色ブドウ球菌の付着したガーゼでマウスを包んだところ、暴露されたマウスは、数日間にわたってかゆみが激化し、繰り返し体を引っかくようになったのです。
また黄色ブドウ球菌に暴露されたマウスは、通常ではかゆみを引き起こさない弱い刺激に対しても、強いかゆみを感じてしまい、過敏に反応するようになりました。
この症状は、アロネーシス(痒覚過敏)と呼ばれており、慢性皮膚疾患を抱える患者によく見られるものです。
確かに、これらの実験結果を考えると、黄色ブドウ球菌が「湿疹のかゆみ」を引き起こしていると言えるでしょう。
次に研究チームは、そのメカニズムを解明することにしました。
黄色ブドウ球菌が放出する10の酵素に焦点を当て、それぞれの影響を調べたのです。
その結果、「V8プロテアーゼ(V8 protease)」という酵素が単独でマウスのかゆみを引き起こしていると分かりました。
黄色ブドウ球菌は、皮膚と接触するとV8プロテアーゼを放出し、これが皮膚上にある「PAR1」というタンパク質を活性化していました。
「PAR1」タンパク質は、熱、痛み、かゆみなどの信号を皮膚から脳に伝える役割があり、通常は休眠状態にありますが、V8プロテアーゼを含む特定の酵素と接触することで活性化するのです。
つまり、湿疹のかゆみとは、「黄色ブドウ球菌」が「V8プロテアーゼ」という酵素を放出し、「PAR1」タンパク質を刺激することで生じていたのです。
また追加実験により、昔からかゆみの原因だと推測されてきた免疫細胞や炎症性物質は、実は関係ないことも分かりました。
それらの免疫細胞をなくしたマウスを、黄色ブドウ球菌にさらしたところ、他のマウスと同様に、かゆみが生じて体を引っかくようになったからです。
そのため研究チームは、次のように結論付けています。
「研究を始めた当初、かゆみが炎症の結果なのかどうかわかりませんでした。
今回、私たちは、かゆみと炎症を分離できることを示しました。
細菌がかゆみを引き起こすのに、必ずしも炎症が必要なわけではないのです。
しかし、そのかゆみは皮膚の炎症を悪化させることがあります」
この世界で初めての発見は、これまで多くの人を悩ませてきた「湿疹のかゆみ」を遮断するのに役立つはずです。