誘惑に負けてしまうのは性格のせいだけではない
脱税、賄賂、ドーピング使用、カンニング。
ニュースや新聞を見てみると、日常的に倫理に反する行動が行われていることが分かります。
不正を犯す誘惑に屈するか、抵抗するかを分ける要因は何なのでしょうか。
所属する組織の文化や個人の責任感、価値観などさまざま考えられます。
特に悪人が倫理的に悪いことをし、善人が良いことをする、つまり非倫理的な行動は性格によるものであると考えてしまいがちです。
しかしほとんどの人は、性格そのものではなく、その場の状況や自分の非倫理的な行動をどのように解釈するのかに左右される可能性があるのです。
また善良な人物が時折倫理に反する行動を取ってしまう理由のひとつとして、自制心の弱さ、あるい自制心の欠如である可能性も考えられます。
そこで米ラトガース大学ビジネススクールのオリバー・シェルドン氏(Oliver Sheldon)らの研究チームは、過去に犯したズルを思い出すことで、倫理的な行動を行う自制心が喚起されるのではないかと考え、実験を行っています。
実験に参加したのは大学生196名で、以下の2つのグループに分けられました。
実験群:「過去に犯して、結果的に上手くいったズル」について紙に書き出す
統制群:「人生の上手くいかなくなった時の計画」について紙に書き出す
その後、歴史的建造物の買い手と売り手どちらかの役割を担当し、自身の利益最大化を目指す不動産取引のロールプレイをしてもらいました。
不動産取引の売り手は、歴史的建造物の保存を肯定的な売り手に探しており、買い手は歴史的建造物を保存しいたと考えているものの、ひそかにホテル建設のための取り壊しを計画している設定になっていました。
このようなジレンマを抱えている状況で、買い手の参加者はホテル建設の計画を売り手に正直に伝えるのか、嘘をつき、値段交渉に行うのかを調べました。
実験の結果、人生の上手くいかなくなった時の計画を書き出した人が買い手になった場合には、売り手に嘘をついた割合が約67%だったのに対し、事前に「過去に犯したズル」を書き出した人は約45%と低くなったのです。
つまり事前に過去のズルを思い出すことで、誘惑に負けた時の影響を予測し、倫理的な行動を取るという理想的な自分のイメージを保持することにつながったものと考えられます。
研究チームは別の状況でも、過去のズルを書き出す行為が倫理に反する行動を抑制するかを検討しています。