狩りをするマカジキの体は明るくなる!
マカジキ(学名:Kajikia audax)は時速100キロ以上のスピードで泳ぐことができる世界最速の魚類の一種です。
彼らは群れで行動し、イワシなどの獲物の大群を見つけるとロケットのように突進して狩りをします。
ただしロケットダッシュで群れから狩りに出るのは決まって1匹ずつです。
彼らには他のカジキ類と同じく、槍のように鋭く伸びた口吻(こうふん)があるため、もし2匹同時にイワシの群れに突っ込んだら、仲間を串刺しにしてしまう恐れがあるのです。
なのでマカジキの狩りは順番を守るのが鉄則であり、仲間が突っ込む間、他のマカジキは周囲で沈黙を貫きます。
一方で海洋生物学者たちにとっては、マカジキが狩りをする順番を仲間内でどうやって調整しているのかよく分かっていませんでした。
そこで研究チームは野生のマカジキの群れを上空からドローン撮影し、どのように狩りをしているのかを観察することに。
そして撮影された映像をつぶさに調べる中で、予想外のことに気づきます。
なんとマカジキは狩りをする個体のみが明るく輝き、周囲で待っている個体は体色が暗いままだったのです。
こちらの映像を見ると、狩りをする個体だけが明るく輝き、捕食が終わると暗い体色に戻ることが確認できます。
チームはこの点を深掘りするべく、マカジキがイワシの群れを攻撃する様子を収めた12本の高解像度ビデオクリップを分析。
狩りをするカジキと狩りをしないカジキの体色のコントラストを注意深く測定したところ、どのビデオクリップでも常に狩りをする個体のみが明るい体色変化を起こし、狩りをしないカジキは暗いまま留まっていることが認められたのです。
このことからチームは、マカジキが群れでの狩りで仲間を傷つけないために、体色変化を順番調整のシグナルとして活用している可能性が高いと指摘しました。
カジキ類が体色を瞬時に変化できることは過去の研究で十分に知られています。
例えば、バショウカジキ(学名:Istiophorus platypterus)は、通常時の褐色や灰色っぽい色から、鮮やかな紫色や銀色あるいは虹色に瞬間的に変色できます。
これは真皮(表皮の内側にある皮膚組織)に「色素胞」と呼ばれる細胞のおかげです。
色素胞の中には数種類の色素が含まれており、これらが神経系によって制御されることで瞬時に体色を変えることができます。
体色変化は主に、天敵に狙われる側がカモフラージュとして使うことが多く、捕食者(特に集団で狩りをする捕食者)が体色変化をするのは珍しいです。
研究主任のアリシア・バーンズ(Alicia Burns)氏は「カジキが色を変えることは知られていましたが、それが狩猟戦略や社会的相互作用と関連していることが示唆されたのは初めてです」と話しました。
この発見はマカジキがこれまで考えられていた以上に複雑なコミュニケーションシステムを持っていることを示しています。
他方でバーンズ氏らは、マカジキの体色変化が狩りの順番調整シグナルとは別に、獲物を混乱させる目的にも使っているのではないかと推測しています。
チームはこの点を含め、マカジキが単独で狩りをするときにも色を変えるのか、狩り以外のシチュエーションで体色変化をすることはあるのかも調べたいと話しています。
それからマカジキの群れが、明るく輝き始めた仲間をどのように視認しているのかも気になるところです。
映像を見る限り、明らかに仲間の後方から輝き始めて、狩りを開始するマカジキが確認されます。
すると前方にいたマカジキにはそれが見えていないわけですが、不思議なことに狩りをする個体が重複することはありません。
もしかしたら一回狩りを終えたマカジキは、仲間の狩りが一巡するまで待機するという別ルールがあるのでしょうか?
こうした疑問点は今後の課題となりますが、マカジキの狩猟戦略はまだまだ奥が深そうです。