脳と神経系で動かすバイオニックレッグ
ほとんどの手足の動き(例:手足を曲げたり伸ばしたり、左右に傾けたりする)は、交互に伸縮する2対の筋肉によって制御されています。
しかし、従来の下腿切断(膝より下の部分の切断)では、これら筋肉の相互作用が妨げられ、神経系が筋肉の位置と収縮速度を感知することが難しくなります。
これは脳が手足をどのように動かすかを決定するために重要な感覚情報です。
だからこそ、この種の切断を受けた人は、手足が空間のどこにあるのか正確に感知できず、義肢を制御することも難しく感じます。
そこで研究チームは、まず2対の筋肉とその相互作用を残す新しい切断手術を開発しました。
この手術を受けた患者は、自分の足が失われても、脳と神経系により自分の足の筋肉を正確に制御できます。
ちなみに、この手法は既に従来の切断手術を受けた患者にも適用でき、調整手術によって2対の筋肉の繋がりを再接続できるようです。
そしてチームは次に、この新しい手術を受けた患者に、人間の歩き方を模倣した義足「バイオニックレッグ」を装着しました。
このバイオニックレッグは、患者の足に残っている筋肉の活動を読み取り、その信号を使用して足首を制御するようになっています。
つまり義肢使用者は、まるで生身の手足を動かす時のように、脳と神経系で直感的に足首を動かせるのです。
そして新しい手術を受けた7人の被験者と従来の手術を受けた7人の被験者でバイオニックレッグの使用感をテストしたところ、前者では後者に比べ、痛みや筋萎縮が軽減し、義肢を自分の体の一部であると感じやすくなりました。
この点について、ハー氏は次のように述べています。
「脳で制御されない義肢の場合、患者は、大工がハンマーを見るのと同じように、義肢を道具として見ます。
しかし、義肢の動きを直接制御できると、患者は義肢をまさに体の一部のように感じることができます」
そして歩行テストでは、新しい手術と義足が、大きな成果をもたらしました。
なんと、従来の義肢使用者と比べて最大歩行速度が41%も増加し、義肢使用者が健常者と同等のスピードで歩けるようになりました。
また、様々な地形に対する適応能力も向上しており、階段や整地されていない地面でも、よりスムーズで自然な歩き方ができました。
どんな地形でもスムーズに歩けるということは、「使用者が義肢を体の一部として感じやすい」ということでもあります。
さらに、新しい義足はより効率的な歩行を可能にするため、歩行時の疲労が軽減し、長時間の歩行や日常生活の活動がより楽になります。
今回の研究と開発により、今後義肢は異物ではなく、私たちの「体の一部」になっていくことでしょう。
研究チームは、より多くの患者が恩恵を受けることを望んでおり、5年以内にこの義足の市販版が利用可能になることを目標にしています。