宇宙飛行士の健康モニタリング
宇宙飛行士は、宇宙という特別な環境で多くのストレスを受けています。
そこで注目されているのが「液体生検」という新しい検査方法です。
これは、血液中にある遊離DNA(cfDNA)や循環細胞外RNA(cfRNA)、そして細胞から分泌される小さな粒子(細胞外小胞)を調べることで、ストレスが身体にどのような影響を与えるかを明らかにします。
地球では、この液体生検を使って、がん細胞から血液中に放出されるcfDNAやcfRNAを検出し、がんの早期発見や治療効果の確認に役立てています。
これは、内視鏡や針で組織を採取する従来の「固体生検」に比べて、患者への負担を大きく軽減します。
将来的には、宇宙飛行士が宇宙で健康を維持し、地球に帰還した後の回復を追跡する手段としても期待されています。
特に、宇宙滞在中に起こるDNAの損傷や細胞の変化を検出するために、cfDNAが有用であることが分かってきました。
技術が進歩すれば、長期の宇宙ミッション中でも、乗組員が自分の健康状態をリアルタイムで把握できる日が来るかもしれません。
双子を使った比較実験
NASAの双子研究では、一卵性双生児の宇宙飛行士を使って、宇宙滞在が人体に与える影響を詳しく調べました。
宇宙に行った兄弟と地球に残った兄弟の遺伝子データを比較した結果、宇宙にいた兄弟の体内で「ミトコンドリアストレス」という現象が確認され、ミッション中にミトコンドリア由来のcfRNAやcfDNAが急増することが分かりました。
また、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が行った実験でも、宇宙空間にいるマウスの体内でミトコンドリア成分が増加することが確認され、人間のデータと合わせて解析が進められています。これらの結果から、液体生検を使って宇宙空間での身体の反応を把握する新たな方法が見つかりつつあります。
このような研究の進展により、将来的には宇宙飛行士が宇宙で受ける影響を早期に察知し、迅速に対策を取ることが可能になるかもしれません。
ポータブルな解析機器を使って、宇宙飛行中に健康状態をリアルタイムでモニタリングできる技術の進化も、宇宙探査の未来をさらに近づけています。
液体生検は、これからの宇宙探査において、飛行中の健康管理に大いに役立つ技術です。
従来の生検に代わり、より手軽で迅速な健康状態のモニタリングを可能にするこの技術が、宇宙医療をどこまで進化させるのか、その未来が期待されています。