分子レベルでの人体への影響
宇宙での人体への影響に関する研究は、ますます解明されてきています。
NASAの双子研究や最近の宇宙飛行士14名に関する調査では、宇宙滞在中に血液中のミトコンドリア内にあるDNAが増加し、地球帰還後には元の状態に戻ることが確認されました。
これらの研究により、宇宙滞在が人体に与える分子レベルでの影響が浮き彫りになってきています。
さらに、この研究では、6人の宇宙飛行士から採取した血液サンプルを用いて、宇宙滞在中に血中のcfRNAにも変化が生じることが確認されました。
特にミトコンドリア由来のcfRNAが増加し、宇宙環境が全身にストレスを与えることが示されています。
また、宇宙空間に滞在すると、ムチン遺伝子(細胞の保護や異物の侵入防御に関わる遺伝子)由来のcfRNAが減少することも発見されました。
このムチンは、体内の保護バリアとして重要な役割を果たしており、重力が人体に与える影響を示しています。
この研究が示すのは、宇宙滞在中に人体がミトコンドリア成分を血液中に放出することで、代謝ストレスに対抗している可能性があるということです。
微小な重力環境下でのミトコンドリアの異常な働きは、健康リスクを高める要因とされていますが、今回の発見は、そのリスクを予測し、対策を講じるための手がかりを提供するかもしれません。
また、CD36という抗体が宇宙滞在時の血液中で重要な役割を果たすことも明らかになりました。
CD36は、体内のストレスや組織の損傷に反応してミトコンドリア成分を運ぶ役割を持つ可能性があり、これが宇宙飛行士の健康管理に役立つと考えられます。
興味深いことに、宇宙飛行関連神経眼症候群と呼ばれる宇宙飛行士に特有の視覚障害についても、今回の研究は新たな洞察を提供しています。
同症候群は宇宙滞在中に視覚に異常をきたす症状で、得られたデータはその原因となる遺伝子や分子メカニズムを解明する糸口となるかもしれません。
また、今回の研究からは、脊椎動物が海(海中は浮力の影響で無重力に近い)から陸へと進出する過程で進化として獲得した重力環境下での機能についても拡張され、老化等でその機能が衰えるという逆のメカニズムへ展開するという研究も始められています。
今回の研究結果は、宇宙での人体の健康状態をモニタリングするための新しい方法を提案するだけでなく、将来的には、宇宙飛行士が長期の宇宙滞在中に遭遇する健康リスクを低減するための生物的な指標開発にも繋がると期待されています。