物語を繰り返し体験するもう1つの利点
何十年も前にみたテレビシリーズを一緒に流れていたCMシリーズをみたとき、人々は不思議な心の安らぎを感じます。
特に視聴者に覚えてもらうことを目的に作ったCMなどは、何十年もの時を置いても記憶に深く刻まれており、心の中に暖かさのようなものも湧き出てきます。
動画サイトには70年代、80年代、90年代、10年代のCMがまとめられているものがありますが、その再生数は決して少なくなく、残されているコメントも回顧の念をつづったものに満ちています。
同様の心の安らぎは、お気に入りの物語を繰り返しみることでも発生します。
(※物語は最近のものでもかまいません)
また馴染みの喫茶店や散歩コースを歩いたり、昔からやっていた楽器の演奏やゲームをしたときにも、同じような心の温かさや安らぎを感じるでしょう。
そのような心の安らぎは、その行動を繰り返したいという欲求を強めます。
「飽きないのか?」という疑問はナンセンスです。
これらの行動に脳が魅力を感じるのは「新たな刺激を減らすため」「お決まりを見たいため」「同じ結末に安心したいため」だからです。
日々の暮らしはストレスが多く、人間の認知能力に大きな負荷を与えてきます。
新しい仕事、新しい人間関係、新しい上司、新しい部下、新しい取引先、新しい業務体制、あるいは恋人とのトラブル、友人とのトラブル、人間関係のストレスなど、人間は毎日の生活の中で認知能力を枯渇寸前まで使い切り、作業記憶も容量一杯に情報を詰め込みます。
そうしない人間を周りがみると、余裕を持っているという好意的な判断ではなく、サボっているとみなされる場合もあるからです。
結果として、プライベートな時間にたどりつくことろには、もう新しい刺激を求める力も失われてしまいます。
近年の研究では、このような精神的に疲れている生活を送る人々にも、同じ物語を繰り返し見たいという欲求が発生することが報告されています。
何度もみたアニメをまた視聴しても認知負荷がかからず、それどころかその先の展開が自分の予想や希望と一致することになります。
「1度みたアニメなんだから先を知っていてあたりまえだろ」
と思うかもしれませんが、人間の脳はそう簡単なものではありません。
先を知っていることと、目の前の物語がそこに終着することを、脳はかならずしも「=」では結ばないからです。
特に登場人物の感情やストーリーのすったもんだがあって予測不能な展開を続けていた場合、自分が知っている結末に辿り着くことは、脳に「優越感」を植え付けます。
また全てを知っており、自分が予期せぬ展開が発生しない世界に接し続けることは、脳に快適さを与えます。
人間社会は自分の力ではどうにもならない事態に満ち溢れており、自分の力の及ばない無数の出来事に圧倒されてしまいます。
一方で、予期せぬ展開が発生しない世界では、人間は自分の人生のコントロール感を取り戻すことが可能になります。
つまり何度もみた物語を繰り返しみることで、人間はすり減った心を癒したり、人生のコントロール感を取り戻したり、つらい現実から一時的に逃避することが可能になるのです。

さらに繰り返し物語を接することで、物語のキャラクターと本当の友達のようなつながりを持てるようになります。
「気持ち悪い」とは言わないでください。
これは誰もが多かれ少なかれ、もっている能力です。
そしてこうした架空のキャラクターとのつながりや仲間意識を感じる能力のことを認知科学では「ソーシャルスナック」つまりスナック感覚で感じられる社会的繋がりと呼ばれています。
ソーシャルスナックによるつながりは、本物の人間同士の交流に取って代わるものではありません。
しかしスナック感覚と言えど社会的つながりの一種であり、人間の心の疲れを癒す力があることが認められています。
そしてこのような現象は子供にも起こり得ます。
子供が何度も同じ物語を見たがる背景には、将来に備えて脳を発達させたいと願う攻めの姿勢に加えて、安らぎを得たいという心理も同時に含まれているのです。
子供は子供で日々の生活に疲れており、幼稚園や小学校では他の子供と比べられて劣等感や嫉妬を抱くことがあります。
そんな疲れ切った子供にとって、慣れ親しんだ物語を体験することは、自分の自尊心を回復しする手段であり、物語を視聴するという決断そのものも、人生のコントロール感を取り戻す手段となり得ます。
もしいまあなたが辛く苦しい状況にいるなら、昔のCMや慣れ親しんだ物語の世界にもう一度触れてみてください。
きっと安らぎが訪れることになるでしょう。
記事の中身はいいけど
書き方にわざわざマイナスの言葉を使う必要ある?
慰めは必要なんだよ 大人でも「大丈夫」って言ってほしいのさ
幼稚園のころ、友達の家で毎日、赤影のソノシートを聞いていたけど、あきることはなかった理由が、わかった。
もう一回!もう一回!