6次元の光を使うと見えてくる新事実
人間が直感的に扱える次元とは、たとえば「上下・左右・前後」という空間的な3次元や、色の3成分(R・G・B)など、少数の次元に限られます。
ところが物理学の世界では、より多くの「状態」や「変数」を同時に扱うことが必要になる場合があります。たとえば、色と違って、光の「ねじれ」は人間の目では直接感じられません。
ここで言う「6次元の光」とは、光が持ちうる「ねじれ方」などの状態を、6種類(あるいは6モード)選んで使うというイメージです。
つまり、人間に見えないパラメータ(ねじれの度合いなど)を複数組み合わせることで、光子1つに格納される「情報の軸」を6本に増やしているわけです。
1つの光子が持てる「状態」が増えれば、そこで扱える情報量が飛躍的に増加します。
文脈性や非局在性といった量子の不思議は、多次元化するほど古典物理で説明できないズレ(不等式の破れ)がより顕著に見えてきます。
そのため、実験で「本当に量子力学が古典的直観を超えているのか」を確かめるうえで、多次元性が非常に役立ちます。
つまりこれまでよりも格段に多くの情報を含む光を使用することで、文脈性と非局在性の変換が可能なことを実証するという戦略です
6次元の光は、あくまで人間が直接6次元空間を知覚しているわけではありません。
代わりに、物理学者たちは実験装置(空間光変調器やレンズなど)と数学的な道具を使って、「いま光がどのモードにあるのか」を確かめたり操作したりしています。
これは「電波や赤外線が目に見えなくてもアンテナやセンサーで検出できる」のと同じように、人間が直接感じられない“追加の次元軸”を技術的に扱っているのです。
要は、見えないものを見るための光というわけです。
実際の実験では、3次元、4次元、そして6次元というそれぞれ異なる“文脈性のセット”を用いて古典的理論(隠れ変数理論)では説明できない「限界値」的なスコアを調べました。
たとえば3次元の場合(YO13セット)では、古典理論で考えると11が最大値になるはずなのに、実験値は11.57前後という “理論上の上限を超える”結果が出ました。
これはちょうど、普通の測定方法では「満点は11点」と決められているテストで、量子の仕組みを使った測定だけが「11.57点」という不思議なスコアを叩き出したようなイメージです。
4次元(KS18セット)や6次元(KS21セット)でも同様にはっきりと“満点超え”が見られ、量子力学が予言する値とよく一致していました。
つまり、ある量子状態(高次元エンタングル状態など)を文脈性の視点で解析しても古典的限界を破り、非局在性の視点で解析してもやはり古典的限界を破る、ということです。
たとえるなら、同じ食材(実験データ)を使って「文脈性ランチ」と「非局在性ランチ」を作った場合、どちらも古典の常識レベルでは再現できない美味しさ(状態)にあることがわったと言えます。
「本来の“満点”を超えてしまう」という事実そのものが、古典理論では説明しようがない量子の“文脈性”と“非局在性”を裏づけているのです。
実験結果はどのセット(3次元、4次元、そして6次元)でも高い統計的信頼度を示し、文脈性と非局在性という一見異なる2つの量子的特性が、実は同じ本質的な構造を持っていることを示しています。
研究者たちは、今回の研究成果は「もつれた2つの光子が遠く離れていても相関関係を保てるのはどのようなメカニズムによるのか?という量子物理学の長年の疑問に迫る鍵になる」と述べています。
文脈性と非局在性という“二大不思議”を結びつけ、高次元空間でその破れを実験的に示したことは、「量子の世界は私たち人間の古典的な直感をはるかに超えた論理で動いている」という冷酷な事実を改めて示すものと言えます。
ただ人間の直感を超えていても、その現象を利用できないわけではありません。
多次元の量子状態は、一つの光子に大量の情報を“詰め込む”ことができる、いわば大容量の宝箱のような存在です。
そしてこれまでにも量子の文脈性は「魔法(マジック)」と呼ばれる特別な計算能力を支える量子計算のパワー源になり得る資源として解釈されていました。
また非局在性は量子暗号や量子通信の基礎として知られています。
もしこの二つが根本的に同じ資源だとわかれば、これまで文脈性と非局在性のそれぞれで培われてきた手法やノウハウを一体化できる可能性があります。
加えて、高次元のもつれが実現すれば、2次元の量子ビットでは困難だった並列処理や複雑な演算を可能にする期待も高まっています。
そうなれば、量子計算と量子通信の両面から得られる利点を組み合わせ、新たな量子技術の開発へとつなげられるかもしれません。