江戸っ子はスイカに塩ではなく砂糖をかけて食べていた

江戸の夏、暑さに喘ぐ日々の中、ひと際涼しげに現れるのが「水菓子」と呼ばれるスイカです。
現代の甘美な果実とは違い、江戸のスイカは水菓子の名の通り、まるで冷水に溶け込むかのような清涼感を秘めつつも、実はその甘さに欠けていたのです。
そのため現在のようにスイカの甘さを引き立てるために塩をかけて食べるということはなく、逆に甘味を付け足すため砂糖と共に味わわれることもしばしばあったとか。
大皿に盛られた涼しげな切り口のスイカ、その横に隣り合わせる六角形のマクワウリ、さらには葉の影を巧みに映し出すビワの果実。
これらの果物は、ただの食材にあらず、夏の暑さを忘れさせる涼しげな詩情そのものとして、江戸の人々に愛されたのです。
中でも、冷し物と称された一皿の「水の物」は、切り揃えられた果実が冷水に浮かぶ様子を、まるで幻想的な水墨画の一コマのように映し出し、見る者の心に涼風を運んだといいます。
江戸の町人たちは、暑さをしのぐためだけでなく、その見事な盛り付けとともに、夏の夢を一口ごとに味わったのでしょう。