異なる物理法則を重ねる「二重性」

実は、私たちの宇宙を解き明かすためのさまざまな理論の中には、「一見まったく違う仕組みを使っているのに、深いところでは同じ構造に行き着く」という不思議な対応関係がしばしば見つかっています。
これを総称して「二重性(デュアリティ)」と呼びます。
たとえばある理論研究では、重力がある歪んだ空間(AdS)が、重力のない平坦な世界(CFT)を比べてみたとき、普通なら全然別の理論に見えるのに、深いところでは同じ数式で記述できる――という発見がありました。
両者が「実は同じ情報を別の角度から見ているだけ」だとすると、歪んでいるはずのものと平らに見えるものが深いところで同じ数式を共有していることになります。
物理学者たちも最初は信じられないくらい不思議な発想でしたが、今では数学的な証拠や多くの計算結果が積み重なって、実際に多くの人が「この対応は本物だ」と考えるようになっています。
こうした二重性が示唆するのは「異なる見方でも結局は同じことを語っている」という可能性です。
これはたとえるなら「一枚のコインにはオモテとウラがあるけれど、実は同じコインを見ているだけ」というようなイメージでもあります。
先ほどの光の粒子としての性質や波としての性質の二重性も、同じ光というものをベースにしています。
今回、新たに注目されている素粒子の「対蹠双対性」も、まったく別の粒子が関わる2つの散乱反応が、裏表のように似た構造をしており「いくつかの法則や力の区分をまたいでも、計算上はある種の対応が成り立つのではないか」と期待されています。