水のワイヤーは生命・材料へのブレイクスルーにつながる

こうして示されたのは、水分子が単独で励起を受け渡すのでなく、ワイヤー全体で電荷の移動を“連携プレー”のように行っている可能性です。
分子が一直線に揃うほど電気双極子も整列しやすく、電子と正孔が結合した“エキシトン”の効果が強まります。
その結果、集団的な励起が顕著になり、観測される吸収ピークが大きくなるわけです。
一方、液体でも8 eV付近の吸収が確認されることから、動的に分子が動き回る中で、瞬間的にワイヤーが形成されているシーンが存在しているのかもしれません。
生体内でも、タンパク質の隙間や膜付近で、プロトン伝導を助ける一時的な「水の電線」が立ち上がっている可能性があります。
こうした視点から細胞レベルの化学反応やエネルギー伝達を見直すと、今まで以上に水の重要性が際立つはずです。
今後は、この水のワイヤーがどのくらいの長さで、どれほどの頻度で生まれるのか、温度や圧力、さらには生体環境などでどう変わるのかなど、解明すべき課題が数多く残されています。
しかし、光吸収分光と多体理論の組み合わせによってワイヤーの存在を直接示す道が開かれた以上、そうした疑問へのアプローチも一気に進む可能性があります。
人工材料の分野でも、水を通じて電荷や情報を効率良く運ぶ仕組みを応用できるかもしれません。
私たちが何気なく使っている水という物質には、まだまだ未知の力が秘められているのです。
こうして見ると、身近な水の中に存在するとされる“電線網”が、実は生命や材料科学の未来に大きなインパクトを与えうることがわかります。
今回の発見は、科学のさまざまな分野を繋ぎ、さらなるブレイクスルーを導く重要な鍵となりそうです。