驚異的なリスの冬眠能力とは?
冬眠というと、寒い時期に巣穴にこもって長い睡眠をとるものと想像するかもしれません。
しかし実際の冬眠は、単なる長い睡眠とはまったく違うメカニズムで機能しているのです。
確かに睡眠中は覚醒時に比べて代謝が低下し、体温も数度ほど下がります。
ところが、冬眠はその何倍も極端で、驚異的な生理学的変化を伴います。
冬眠をする動物は数多くいますが、中でも研究者が注目しているのは北アメリカに生息する「ジュウサンセンジリス(学名:Ictidomys tridecemlineatus)」です。
ジュウサンセンジリスの大人は7月下旬から冬眠に入り、翌年の3月中旬〜5月頃に目を覚まします。
冬眠中は固く球状に体を丸め、1分間に100〜200回だった呼吸を、5分間に1回にまで減少させます。

心拍もわずかにしか打たなくなり、脳波もほとんど平坦になって、昏睡よりもさらに低い活動レベルになるのです。
傍目から見れば死んでいるようにしか見えませんが、リスはちゃんと生きています。
実際にリスは冬眠中ずっと寝ているのではなく、定期的に短時間だけ急に目を覚まして、老廃物を排出したりするのです。
しかしそれが終わると、またすぐに冬眠に入ります。
さらに驚異的なのは、これほどの低代謝状態でも筋肉量をほとんど失わないことです。
脂肪は燃焼されますが、筋肉は維持されたままになります。
これは宇宙飛行士が微小重力下で筋萎縮を防ぐために毎日何時間も運動していることを考えると、非常に特筆すべき点です。
また、リスは脳や心臓などの重要な器官も、低温や代謝の低下からしっかり守っています。
加えて、冬眠中のリスは体内の炎症反応が抑えられ、脳の損傷や放射線への耐性も高まっていることが示されています。
これらの性質は、宇宙空間での人工冬眠に役立つだけでなく、人間の病気や外傷治療にも応用できる可能性があるのです。
では、リスの冬眠のメカニズムは今どこまで解明できているのでしょうか?