アインシュタインも二度見?量子もつれ完成までには232アト秒の“微妙な間”があった

今回の研究で量子もつれの対象とさせられるのは、ヘリウム原子の中に元々寄り添っていた二つの電子です。
調査ではまず量子もつれ状態を作るために、ヘリウム原子に超高強度・高周波数のレーザーパルスを照射して電子の動きを調べる過程がシミュレーションされました。
するとレーザー光によって原子から1個目の電子がもぎ取られ、原子の外へ飛び出します。
またレーザーが十分に強力な場合、原子中に残った2個目の電子にも影響が及び、強力なエネルギーを与えて軌道を変化させることができます。
こうしてパルス照射後、一方は原子外へ飛び出した電子、もう一方は励起された(高エネルギーの)状態にある電子というペアが生まれます。
ブルグドルファー教授は「この2つの電子は量子もつれ状態になっています」と語ります。
同教授は「片方の電子に測定を行えば、同時にもう片方の電子について何かを知ることができます」とも述べています。
次の焦点は、この2電子がもつれ状態へ至る時間的な順序を測定することでした。
研究者たちはレーザー照射の瞬間をスタートとして、飛び出した電子の「誕生時刻」と原子に残った電子のエネルギー状態との間に量子もつれ状態が生まれるまでのタイムラインを追跡したのです。
すると電子はボールのようにぱっと飛び去るのではなく、伝言ゲームのような事態が起きていることがわかりました。
レーザー光に弾かれた電子は粒のように飛び出すのではなく、まず波として原子殻からこぼれ出し、その波が残った電子の軌道に触れた瞬間に二つの電子が量子的に結び付きます。
つまり、結び付きの種はレーザー照射と同時にまかれますが、その種が発芽して「もつれ」という完全な関係を形づくるまでには、波が広がるのと同じくごく短い時間が必要だったのです。
さらに飛び出した電子の「誕生時刻」は決して一点に定まるものではなく、早い時刻と遅い時刻という量子的なゆらぎによって幅が存在していることもわかりました。
そして興味深いことに、その不確定な「誕生時刻」は原子に残された電子のエネルギー状態と密接に結びついているのです。
具体的には、残った電子が高いエネルギー状態にある場合、飛び出した電子はより早いタイミングで放出された可能性が高く、逆に残った電子が低いエネルギー状態なら飛び出した電子の誕生時刻はより遅かった可能性が高いことが分かりました。
そして、その電子が遅く飛び出すシナリオでは平均232 as後になると予測されたのです。
1アト秒は1秒の100京分の1という途方もなく短い時間ですが、研究チームはこのわずかな時間差を理論的に導出し、シミュレーションで実証しました。
この発芽プロセスを見逃してしまうと、もつれは魔法のように“いきなり”現れたように見えますが、超高速カメラでスロー再生してみれば、そこには水面に波紋がじわりと届くのとそっくりな、連続した時間の流れが潜んでいました。
この結果は、量子もつれでは状態の変化が伝わるのは「ゼロ秒」ですが、量子もつれそのものの発生は「ゼロ秒ではない」可能性を示しています。
現在、この予測を実験的に検証するために他の研究グループと協力交渉を進めているとのことです。