自転車移動が脳を守る
認知症は今や、世界中の高齢者の健康を脅かす大きな課題です。
2019年時点で全世界に約5500万人いた患者は、2050年には1億3900万人に達すると予測されています。
しかも65歳未満で発症する「若年性認知症(YOD)」は、介護負担や死亡率が高く、家族にも社会にも大きなインパクトを与えます。
そんな中、予防策として注目されているのが「身体活動(Physical Activity)」です。
運動習慣が脳に良いということはよく知られていますが、「日常の移動手段」が脳の健康にどう影響するのかについては、これまであまり研究されてきませんでした。

今回の研究では、英国の大規模バイオバンクに登録された47万9723人のデータが使われました。
対象者は平均年齢56.5歳で、調査開始時には全員が認知症の兆候を持たず、歩行可能な状態にありました。
研究チームは、参加者に「過去4週間で最もよく使った移動手段(通勤を除く)」を尋ね、以下の4つのカテゴリに分類しました。
・非アクティブ:自家用車または公共交通機関
・徒歩
・混合ウォーキング:徒歩と他の移動手段の併用
・自転車・混合自転車:自転車単独または他の移動手段との併用
その後、中央値13.1年にわたる追跡調査を行い、認知症の発症とMRIによる脳構造の変化を分析しました。
結果は明快でした。
自転車や混合自転車で移動していた人は、全認知症の発症リスクが19%も低下。さらにアルツハイマー病は22%、若年性認知症は40%、晩発性認知症も17%リスクが下がっていたのです。
一方で、徒歩だけで移動していた人は、必ずしも効果が高いとは言えませんでした。単独の徒歩移動では、アルツハイマー病のリスクがむしろわずかに上昇していたのです。
この違いは何を意味するのでしょうか?