脳は「嫌われている」というサインをどう受け取るのか?
もし自分がたくさんの友だちやフォロワーに囲まれていたとしたら、誰か知らない人からの批判なんて、あまり気にならないと思うかもしれません。
しかし実際は、人気のある配信者やインフルエンサーが、明らかにファンでもないアカウントからの辛辣なコメントに反応してしまい、感情的な反論をする出来事が珍しくありません。
普通に考えれば、圧倒的に多くのポジティブな支持の声に囲まれているのだから、わざわざ“知らない誰かの一言”を相手にする必要はないように思えます。
なのに多数のファンの声が、たった1つのアンチコメントにかき消されてしまうのはなぜなのでしょう?
こうした現象に関連すると思われる興味深い報告をしているのが、南カリフォルニア大学の研究チームです。
彼らは韓国の人口およそ1000人規模の村落に暮らす住民を対象にある調査を行いました。
この村は、人々が日常的に顔を合わせ、誰と誰が仲が良いのかが自然と周囲に伝わるような、密接なコミュニティです。
研究チームはまず、韓国の農村に暮らす人々を対象に、誰が誰とよく交流しているかを調査しました。
その際に用いられたのが「アウトディグリー中心性(outdegree centrality)」という指標です。
これは、他人から「相談相手」や「重要な関係者」として名前を挙げられた回数をもとに、その人がどれだけ多くの人とつながりを持っているかを示す数値で、村のなかで「頼られている度合い」を客観的に表すことができます。
そしてこの社会的つながりの広さが、見知らぬ他人からの「拒絶的サイン」に対して、脳がどう反応するかを調べるために、研究チームは2つの脳画像実験を実施しました。
最初の実験では、「Cyberball」と呼ばれるバーチャルなボール投げゲームを用いました。
参加者は、ゲームの前半では他のプレイヤー(実際にはコンピューター)と順番にボールを投げ合いますが、途中から他の2人だけでボールを回し、参加者を無視するという意図的な仲間はずれの状況が生じます。
このときの脳活動をfMRIで測定したところ、村で多くのつながりを持つ人ほど、仲間外れにされたときに、島皮質(身体感覚や感情のモニタリングに関与)と前帯状皮質(社会的苦痛や不安に関連)が強く反応していることが確認されました。
2つ目の実験では、「見知らぬ他人からの否定的な表情」に対する脳の反応が調べられました。
ここでは、参加者に「見たこともない他人の怒り・嫌悪などのネガティブな表情」の映像を見せ、その際の脳活動をfMRIで測定しました。
この結果、他人から信頼されている人気者の参加者ほど、見知らぬ他人の否定的な表情に対して、島皮質と前帯状皮質が強く反応することがわかったのです。

つまり、「つながりの多い人ほど、初対面の他人からのわずかな否定的なサインに、脳が過敏に反応する傾向」が示されたのです。
この結果は、有名人がSNS上で「フォロワーでもない人からの否定コメント」に心を乱されている現象と重なる部分があります。
しかし、なぜ他人の態度がそんなに気になってしまうのでしょうか?