ルナ・オービター1号の挑戦と「偶然の一枚」
1960年代、NASAはアポロ計画に向けて急ピッチで準備を進めていました。
人類を月に送り込み、安全に着陸させるためには、月面の地形を正確に把握し、着陸に適した場所を選ぶ必要がありました。
そこで立ち上げられたのが「ルナ・オービター計画」です。
無人探査機を月周回軌道に送り込み、写真を撮って地球に送信することが目的でした。
その先陣を切ったのがルナ・オービター1号。
1966年8月10日に米フロリダ州ケープカナベラルから打ち上げられ、約92時間後に月周回軌道へと投入されました。

搭載されたカメラは、露光したフィルムをその場で自動現像し、スキャンして電波で地球に送信できるという、当時としては革新的なシステムでした。
もともとは冷戦時代のアメリカが開発したスパイ衛星「サモス」に搭載されていた技術を応用したものだったという。
ルナ・オービター1号は1966年8月18日から29日にかけて撮影を行い、42枚の高解像度画像と187枚の中解像度画像を取得。
これによりおよそ500万平方キロメートルに及ぶ月面が撮影され、9か所のアポロ計画着陸候補地と7か所の予備候補地が記録されました。
そして16周目の軌道上、探査機のカメラがふと月の地平線をとらえた瞬間、予期せぬ光景が送られてきました。
白と灰色に揺らめく月面の向こうに、細い三日月の形をした地球が浮かび上がっていたのです。
それがこちら。

NASAによると、これは計画されていた撮影ではなく、いわば偶然の産物でした。
しかし、その一枚は人類が初めて「月から自分たちの惑星を見た」証拠となり、科学史に残る画期的な出来事となりました。
ルナ・オービター1号の任務は当初1年間の予定でしたが、姿勢制御用ガスの不足や機器の劣化が懸念され、後続探査機への電波干渉を避けるため、打ち上げから76日後の1966年10月29日に月の裏側へ意図的に衝突させられています。