サルも“画面の魔力”に引き込まれる?人間と動物をつなぐ実験の舞台裏
スマホ依存は人間だけの現象なのでしょうか。
感覚的な刺激だけで行動が維持されるかを確かめるため、今回の研究ではエサや水を用いず、映像と音だけを“報酬”とするサルのスマホ実験を世界で初めて行いました 。
これまでの動物行動の研究では、ご褒美(報酬)としてエサや水などの物質的な報酬を与えることが一般的でした。
たとえば、サルがレバーを押すとジュースがもらえるという実験がよく行われています。
この場合、サルはご褒美がもらえるから何度もレバーを押すようになります。
一方で、人間がスマホを触る理由は、食べ物やお金といった明確な報酬があるからではありません。多くの場合、画面の中で画像が動いたり音が鳴ったりする感覚的な変化があるだけです。それなのに、なぜ私たちの指は止まらなくなるのでしょうか。
研究に登場したコモンマーモセット(Common marmoset、学名:Callithrix jacchus)は、南米原産の小型のサルです。体重はおよそ250〜450グラムで、成獣のラットほどの大きさです。おとなしくて飼育しやすく、脳の構造や社会性もヒトと似ているため、神経科学の分野でも人気の高い動物モデルです。
今回の研究では、コモンマーモセットの生活ケージにiPad(タブレット端末)を設置しました。

ちなみに実験に使われたiPad®は標準的サイズ(約10インチ/24×17cm程度)で、人間の手には普通の大きさですが、マーモセットの身体が小さいためとても大きく見えています。このiPadの画面には、さまざまなサルの無音動画が9つ同時に表示されていて、コモンマーモセットがどれかの動画に触れると、その動画だけが画面いっぱいに拡大され、同時にサルの鳴き声がスピーカーから流れます。
ここで重要なのは、画面の変化や音が唯一のご褒美であり、エサや水といった直接的な報酬は一切与えられていないことです。そして1回10分間程度の利用を、週に2〜3回、2か月にわたってサルたちは繰り返しました。
はたしてサルたちは、ご褒美のエサなしでも画面をタップし続けるのでしょうか。