原因は遺伝的な疾患にあり
この現象の正体は「先天性ミオトニー(myotonia congenita)」と呼ばれる遺伝性の筋疾患です。
筋肉の収縮と弛緩をコントロールするイオンチャネル(特に塩化イオンチャネル)がうまく働かないことで、筋肉が急に強く固まり、数秒から20秒程度もとの姿勢に戻れなくなるのです。
この疾患はヤギだけでなく、ヒトや他の動物にも見られますが、ヤギの場合は特に驚いたときにこの「気絶」に似た硬直が起きやすく、結果的にコミカルな転倒行動が発生します。
気絶ヤギのこの特徴は遺伝的に受け継がれており、1880年代にアメリカ・テネシー州の農場で偶然発見された個体がルーツだとされています。
この品種は、ほかのヤギに比べるとやや小柄で筋肉質、四肢がしっかりしているなどの身体的な特徴も持っています。
本来なら「闘争か逃走か(fight or flight)」反応で素早く逃げられるはずが、気絶ヤギの場合は“第三の選択肢”として「倒れる(fall over)」が加わってしまう、というユニークな生態が生まれました。
実際にはヤギ本人は痛みもなく、しばらくすると何事もなかったかのように立ち上がってまた歩き始めます。
しかし、天敵から逃げる必要がある野生動物としてはかなり不利な特徴であり、結果として「囲い込みがしやすい」「柵を飛び越えにくい」といった点から、人間に飼育される運命をたどりました。

一方で、この品種の研究は、人間における同様の遺伝子疾患のメカニズム解明にも役立っています。
ヒトにも同じような遺伝子異常による「ミオトニー」という病気があり、医学研究の観点でも「気絶ヤギ」は重要なモデル動物とされています。
現在、アメリカでは3000〜5000頭ほどの気絶ヤギが登録・管理されており、飼育用または遺伝学や筋疾患の研究材料として世界中で注目を集めています。
痙攣持ちとしては色々と親近感がわく相手ですね。