光学システムにおける「ワームホールと多重現実」を構築することに成功
光学システムにおける「ワームホールと多重現実」を構築することに成功 / Credit:Canva
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光学システムにおける「ワームホールと多重現実」を構築することに成功 (2/3)

2025.11.10 19:00:35 Monday

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1枚の板で起きた「多重現実」の実証実験

1枚の板で起きた「多重現実」の実証実験
1枚の板で起きた「多重現実」の実証実験 / Credit:赖耘、彭茹雯、王牧和CT Chan团队首次实现光子“平行空间”与“虫洞”

まず研究チームは学実験において、光を「見えない道」で運び、一枚の素材の中に「二つの現実」を共存させることに挑みました。

用いたのは細かな人工構造からなる特殊な板状のメタマテリアルです。

この人工素材は、光が入る素材の端が異なると内部で全く違う光の状態を起こすよう設計されています。

例えば人工物質の入口Aから入る光には「状態A」として、入口Bから入る光には「状態B」として振る舞う二面性を持つのです。

研究者らはこの巧妙な素材によって、入口の違いだけで内部に見える世界が変わる光学系を作り上げたといいます。

次に行われた実験では、2つの驚くべき現象がデモンストレーションされました。

1つ目は「光子ワームホール」と呼ばれる現象です。

研究者が作った細長いメタマテリアルの長い側から光を当てると、素材の中でまるで入れられた光が消えてしまったかのように見えなくなります。

一方で短い側面から光を入れた場合、光はまるで素材を通らなかったかのように反対側から出ていきます。

つまりこのメタマテリアルの内部には「短い側から入った光専用の隠れたトンネル」が存在しており、外からは光が通っていることをほとんど検知できないという現象が起きています。

この現象は、入って行った光が中間過程が確認できず出口から飛び出てくるという点で、ある種のワームホールのような振る舞いにたとえられます。

といっても多くの人は「単なる箱に穴をあけて通すのと同じでは?」と思うかもしれません。

暗い箱にボールを入れて出てくる様子を見て「暗い箱をワームホールと呼ぶのはいかがなものか?」と疑問に持つ人もいるでしょう。

しかしこの「ワームホール効果」が単なる箱と違うのは、外から中をのぞいても通過する光そのものが観測されない点にあります。

箱の場合は簡単に中を通過するボールを覗き見ることができますが、このメタマテリアル内部での光子の様子を知ることがでず、光がどのように通っているかを外部から見ることはできません。

そして光は内部の特殊な通路で静かに進み、位相のずれがほとんどないまま出口へと抜けます。

つまりこれは物理的な穴ではなく、「外からは見えない透明な抜け道」なのです。

続いて、同じ人工素材の技術を使って「光学的な多重現実」が実証されました。研究チームは別の設計により、1枚の板の中に「ボートの形をした物体」と「樹木の形をした物体」という、異なる2種類の光を散らす物体を閉じ込めました。

実験では、この人工素材の一方の境界から光(マイクロ波)を当てると、あたかも中にボート型の物体があるかのように光が散乱されました。

一方、反対側の境界から光を当てると、今度はボートの影響は現れず、代わりに樹木型の物体があるかのような散乱パターンが観察されました。

さらに別の例では、同じ板が片側で凸レンズ、逆側で凹レンズとなる設計も示されています。

このように入口(境界)を切り替えるだけで、1つの素材が全く異なる光学デバイスとして働くのです。

重要なのは、こうした二重の光学効果が同じ板の中で同時に存在しているにもかかわらず、お互いに影響を与えないことです。

研究者らは「それはまるで、1つの素材の中に2つの光学的現実を宿しているようなものです」と述べています。

実験では、一方から入った光は船だけが存在するかのように散乱し、逆の側から入った光は木だけがあるように散乱しました。

通常なら、1つの素材に2種類の形を入れると、どの方向から光を入れても両方の影響が混ざります。

しかしこのメタマテリアルでは、入口が違うだけで見える景色がまったく異なるのです。

言い換えれば、同じ場所に置かれた船と木が別の次元にあるかのように互いに干渉せず機能したことになります。

この効果によって「フォトニック多重現実」(光による複数の現実)が実験で確認され光学的に1つの場所に異なる2つの現実が並び、互いを邪魔せずに動作できることが確かめられました。

ではなぜ入口の違いが見える現実を別のものにしたのでしょうか?

その答えはメタマテリアルの仕組みにあります。今回の素材は、内部のそれぞれの経路が互いに干渉しないよう、精密に調整されています。

そのため、それぞれの経路がまるで外部とは隔離された秘密の通路のように働き、互いに存在を感じさせないまま別々に機能するのです。

言い換えると、このメタマテリアルの中では、入口ごとに分かれた「専用の現実」が同時に作られており、それぞれが独立して動作しているというわけです。

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