光学システムにおける「ワームホールと多重現実」を構築することに成功
光学システムにおける「ワームホールと多重現実」を構築することに成功 / Credit:Canva
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光学システムにおける「ワームホールと多重現実」を構築することに成功

2025.11.10 19:00:35 Monday

中国の南京大学(NJU)および香港科技大学(HKUST)の共同研究により、1つの人工素材内に2つの「光学的平行現実」を共存させることに成功しました。

研究ではではまず特殊な光子の「ワームホール効果」が確かめられ、この特性を利用して光を見えないトンネルで誘導し、同じ場所に置かれた2種類の光学的現実が互いに干渉せずそれぞれ独立して存在するという光学的現象が実証されました。

この現象は、SFでしばしば描かれる「多重平行世界」や「ワームホール(時空をつなぐ架空の近道)」を光学レベルで再現したものと位置づけられています。

将来的には、物理空間の常識的な制約を超え、1枚のフォトニックチップ上に複数の光デバイスを干渉なしに重ねて統合するといった新次元の応用につながる可能性があると期待されています。

一体どのようにして、そんな不思議な現象を実現したのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年10月7日に『Nature Communications』にて発表されました。

赖耘、彭茹雯、王牧和CT Chan团队首次实现光子“平行空间”与“虫洞” https://www.nju.edu.cn/info/1067/443041.htm
Nonlocality-enabled photonic analogies of parallel spaces, wormholes and multiple realities https://doi.org/10.1038/s41467-025-63981-3

「透明マント」から「現実の相部屋」まで、光学の新常識

「透明マント」から「現実の相部屋」まで、光学の新常識
「透明マント」から「現実の相部屋」まで、光学の新常識 / Credit:Canva

えない道でを運び、ひとつの物質に2つの現実を宿す――そんな夢のような干渉ゼロの「相部屋」は実現可能なのでしょうか。

例えば同じ部屋に2人がいてもお互い全く見えないとしたら不思議ですよね。実は私たちが暮らす三次元空間には、本来こうした「重なり合う別世界」は存在しません。

多元宇宙(パラレルワールド)やワームホール(遠く離れた場所を繋ぐ仮想的な抜け道)といったアイデアは古くから科学者やSFファンを魅了してきましたが、物理的な次元の制約により実験で証明するのは長らく困難でした。

たとえ同じ空間に複数の現実(出来事)を無理矢理同居させたとしても互いに影響しあい、1つの現実に統合されてしまうからです。

しかし近年、「メタマテリアル」という人工的に設計された特殊な材料が登場したことで、光学の常識が次々と覆されるようになりました。

「メタマテリアル」とは、自然界には存在しないような特殊な構造を、人間が精密に設計して作り出した材料のことを指します。

普通の素材では、光は直進するか、ガラスのように屈折したり反射したりする程度のことしかできません。

しかしメタマテリアルは、内部に微小な構造を作り込むことで、光をまるで自由自在に操るかのような、驚くべき性質を引き出すことができます。

例えば、光の通り道を意図的に曲げたりねじ曲げたりすることで、ある物体をまるで「見えない」ように隠してしまうことも可能になりました。

これは通称「透明マント効果」とも呼ばれ、かつてはSF映画や小説の中でしか想像できなかった「姿を消すマント」を、光学の実験室で小さなスケールながらも(背景例として)実現してしまったというわけです。

とはいえ、「同じ場所に異なる現実を二つ作る」ような芸当は実験で証明するのが極めて難しいものでした。

そこで注目されたのが「遠く離れた部分同士も影響し合う特殊な材料(非局所的材料)」です。

コラム:非局所的な人工素材とは何か?

ふつう私たちは、ある場所に起きる出来事は、その場所にあるものだけに影響されると考えています。例えば自分の部屋の電気をつけるとき、そのスイッチを押さない限り部屋の電気はつきません。隣の家や遠く離れた場所で誰かがスイッチを押しても、自分の部屋の電気が勝手につくことはないでしょう。ところが、「非局所的な人工素材」という特殊な材料の世界では、この常識が少しだけ変わります。「非局所的」とは、「その場所だけに限らない」という意味を持ちます。言い換えれば、遠く離れた場所にある構造や仕組みが、その素材の中の別の部分に影響を与えることがあるのです。この人工素材は全体が非常に細かく精密に設計されたパターンや格子構造を持っていて、素材全体で光や電波などの波の状態を決めています。そのため、素材のある場所に波が入ってきたとき、その波は素材の別の場所にある構造からの影響も受け、全体のバランスが決まってしまうのです。まるで遠くにいる友達が縄跳びの片端を揺らしたとき、反対側にいる自分の手元にもその振動が伝わってくるような感覚です。つまり非局所的な人工素材とは、素材全体がつながり合っていることで、私たちが普段イメージしにくいような、不思議な光学現象を起こせるように設計された特別な材料なのです。

研究者たちはこの非局所的材料を駆使し、ある大胆な仮説を検証しました。

それは「1つの物理的な空間に、互いに独立した2種類の光学的現実(出来事)を同時に作り出せるのではないか?」というものです。

もしそれが可能なら、1つの素材の中で2つの光学デバイスが別々に作動し、まるで別々の次元に存在するかのように振る舞うはずです。

果たして、本当にそんな光の多重並行世界(フォトニック多重世界)やワームホールのようなものを、実験室で再現できたのでしょうか?

次ページ1枚の板で起きた「多重現実」の実証実験

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