情報には質量があり固体・液体・気体に並ぶ新たな物質の1形態である
アインシュタインの遺した有名な方程式は、質量とエネルギーが相互に変換可能であることを示しています。
この方程式は核兵器の原理にもなっており、核兵器では質量をエネルギーに変換することで巨大な爆発を引き起こします。
また質量からエネルギーへの反応をよりマイルドにすることで、現代文明は原子力発電を実現しています。
(※核兵器や原子力発電では、重い原子が分裂したとき消失する質量がエネルギーに変換される現象を利用しています)
一方で1961年、ランダウアーによって情報は物理的な性質を持っており、独自のエネルギーを保持しているという考え(ランダウアーの原理)が提案されました。
アインシュタインが質量とエネルギーを結び付けた一方で、ランダウア―は情報とエネルギーを結びつけたのです。
情報にエネルギーがあるとの考えは非常に奇抜で受け入れがたくありますが、近年の研究では「ランダウアーの原理」が次々に実験的に確認されています(1.2.3.4)。
また以前に行われた別の研究では情報の持つエネルギーが質量に変換可能であり、質量とエネルギーと情報の等価性が示されています(5)。
そこで今回、ポーツマス大学の研究者は、情報のもつ質量やエネルギーを実際に観測するための手段を考案しました。
実験の対象として想定されたのは、この宇宙で最も基本的な要素とされる素粒子です。
素粒子にはさまざまな種類があり、それぞれ固有の物理的な性質を持っています。
研究では、これら素粒子たちの豊富な性質が「情報」の一種であると定義することからはじまります。
そして素粒子の情報に質量がある場合、素粒子の全ての質量をエネルギーに変換した際には、情報の持っていた質量もエネルギーに変換されると考えました。
この質量からエネルギーへの変換方法として提案されたのが、対消滅です。
物質と全く正反対の性質を持つ反物質を衝突させると、両者は消滅して、両者が保持していた質量が全てエネルギーとして放出される「対消滅」が発生します。
研究では上の図のように反物質の候補として陽電子、物質の候補として電子をあげています。
反物質である陽電子と物質である電子が衝突した場合、対消滅が発生し、陽電子と電子の質量がエネルギーに変換されて放出されます。
しかし陽電子や電子の情報に質量がある場合、既存のエネルギー放出(ガンマ線)に加えて追加の情報分のエネルギー放出(赤外線)が起こると考えられます。
また計算を行った結果、電子に含まれる情報の質量は電子本体の質量の2200万分の1であると算出されました。
もし対消滅試験において予測値通りの値が観測されれば、情報にも質量が存在し、情報の物理学的な側面を扱う情報力学への扉が開かれるかもしれません。