地球には星々を渡る恒星間天体の衝突が起きやすい地域が存在する
地球には星々を渡る恒星間天体の衝突が起きやすい地域が存在する / IMAGE COURTESY OF M. KORNMESSER/ESO
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地球には星々を渡る恒星間天体の衝突が起きやすい地域が存在する (2/2)

2025.11.17 20:00:26 Monday

前ページ一撃が重い恒星間天体の衝突頻度に地域差はあるのか?

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恒星間天体は赤道からやや北に落ちやすい

恒星間天体は赤道からやや北に落ちやすい
恒星間天体は赤道からやや北に落ちやすい / 単位時間当たりの恒星間天体の落ちる頻度を図にしたもの。赤道からやや北の一帯が頻度が高く北極と南極はやや低くなっている。/Credit:The Distribution of Earth-Impacting Interstellar Objects

星間物体の落下には、本当に“クセ”があるのか?

その答えを確かめるために、研究チームはまず「星間物体とはどんな石ころなのか」を、物理の基本だけで考え直しました。

星間物体は、太陽に縛られている太陽系の小惑星と違い、もともと別の恒星のまわりで生まれた天体だと考えられています。

こうした天体は、恒星同士の重力の“押し合いへし合い”で軌道から弾き飛ばされ、銀河空間を長い時間さまよう存在です。

つまり星間物体は、もともといろいろな方向から、いろいろな速さで太陽系に飛び込んでくる可能性がある“宇宙の落とし物”のようなものです。

そこで研究チームが用意したのは、仮想的な260億個の星間物体を同時に宇宙へ放つという、スケールの大きなシミュレーションでした。

ちりばめられた260億個の物体の動きをみることで、もし地球に当たるとしたら、どんな方向・どんな季節・どんな場所に偏るのかという“パターンの形”を純粋に力学だけで描き出そうとしたのです。

するとまず「どの方角からやって来るか」に偏りがあることが判明します。

全天を地図にして可視化すると、衝突してくる星間物体の多くは、太陽が銀河の中を進んでいく方向(太陽向点方向)から飛び込んでくる傾向がありました。

その濃さは平均の約2倍にも達し、逆方向は平均の半分にまで減っていました。

これはまるで、雨の中を走る車がフロントガラスに多くの雨粒を受け止めるのと同じです。

車が進む方向には雨粒が押し寄せるようにぶつかってきますが、その背中側では雨粒は通り過ぎていきます。

星間物体も同じで、太陽系が銀河の中を進むぶんだけ、前方から「宇宙の飛び石」が飛び込んでくる確率が高まるのです。

また銀河レベルの方向となると、円盤が伸びる方向からも飛び込んできやすいことも示されています。

太陽系の星々は銀河の中を螺旋を描くようにして飛んでいきます
太陽系の星々は銀河の中を螺旋を描くようにして飛んでいきます / Credit:Canva

しかし研究チームが本当に驚いたのは、「季節によるクセ」まで現れたことです。

星間物体の衝突速度を季節ごとに分類したところ、最も速い衝突は春に集中していました。

これは地球が春ごろ、星間物体は太陽系に対してだいたい一定の向きから「宇宙の向かい風」のように吹きつけていると考えられます。

地球は太陽のまわりを1年かけて回りながら、この宇宙の風の中をぐるぐる走っているランナーのような存在です。

春ごろの地球は、この宇宙の向かい風に正面から突っ込む向きで走っています。

このとき地球と星間物体の進行方向は真正面からぶつかるので、相対的なスピードがいちばん速くなります。

そのため、もし星間物体が当たるなら、春の衝突はとても高速な「正面衝突」になりやすいのです。

反対に「数の多さ」では、冬が堂々のトップでした。

冬の地球は太陽の少し後ろ側の位置取りになります。

星間物体は先に太陽のそばを通り、その重力で軌道を少し内側へ曲げられます。

その結果、太陽の背後には地球の軌道に入り込みやすいルートが自然に形成され、冬の地球はちょうどそのルートに重なるため、衝突しやすい星間物体の本数が増えるのです。

次に気になるのは、地球の表面での「地域性」、つまり星間物体は地球のどの場所に落ちやすいのかという点です。

シミュレーションの結果からは、星間物体が落下しやすい地域が明確に浮かび上がってきました。

それは北極や南極といった極地ではなく、赤道付近をぐるりと囲む比較的低緯度の地域でした。

しかも、この星間物体が落ちやすい帯は、地球の赤道にぴったり重なるのではなく、ほんのわずかですが北側にずれていることが判明しました。

ここで重要なのは、これらのパターンが純粋に物理的な仕組みだけで導き出されたという点です。

この結果が実際の私たちの生活に与える影響は、一見遠い宇宙の話に見えて、実は決して小さくありません。

例えば、近い将来、地球防衛の一環として星間物体の観測や衝突回避を目的とした宇宙ミッションが計画される可能性があります。

その時、この研究で得られた「どの方向から、どの季節に、地球上のどこに注意を向ければ良いか」というパターンが、観測網やレーダーの配置計画の貴重なヒントになるでしょう。

また、まもなく稼働が予定されている大型望遠鏡、特にルービン天文台の広域サーベイ望遠鏡では、多数の星間物体の発見が期待されています。

今回の研究成果を使えば、「実際に観測された星間物体が、この理論予測どおりの方向・季節に現れるのか?」という重要な検証が可能になるのです。

未来の宇宙望遠鏡や観測ネットワークとこの「星間物体のクセ地図」を組み合わせれば、私たちは今よりもずっと早く、宇宙から飛来する石ころを見つけられるかもしれません。

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