Credit:Max-Planck-Gesellschaft,© The Suaq Project
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オランウータンの食生活は“文化の継承”なしでは成立しないと判明

2025.11.30 12:00:27 Sunday

私たち人間は非常に豊かな食文化を持ちますが、それは何世代にもわたる試行錯誤の結果、“食文化”として受け継いだものです。

もし誰からも何も教わらず、「自分の勘だけ」で食べ物を試す生活だったとしたら、現代の私たちはこれほど豊かな食事のレパートリーを維持することはできなかったでしょう。

しかし、こうした食文化を生み出し継承するのは人間だけなのでしょうか。

こうした疑問について、ドイツのマックス・プランク動物行動研究所(Max Planck Institute of Animal Behavior)とスイスのチューリッヒ大学(University of Zürich)を中心とする国際研究チームは、インドネシア・スマトラ島のスアク・バリンビン(Suaq Balimbing)という湿地林で12年間にわたりオランウータンの行動を記録して調査しました。

スマトラの熱帯林に棲む、およそ250種類もの食べ物を知っていると言われ、実に複雑で多様な食生活を送っています。

このオランウータンの多彩な食生活は、到底「自分一人だけの努力」で、身につけているとは考えられません。

そこで研究チームは、膨大な調査データを基に「もし幼いオランウータンが、母親のすぐそばで観察したり、一緒に食べたりする機会を大きく減らされたらどうなるか」をコンピュータ上で再現したのです。

その結果、オランウータンの食生活は、単なる本能や個人的な試行錯誤だけでは説明できず、何世代にもわたる「発見」と「まね」の積み重ねがあって初めて成立する、「文化的依存」の食生活である可能性が示されたのです。

この研究の詳細は、2025年11月付けで科学雑誌『Nature Human Behaviour』に掲載されています。

Orangutans can’t master their complex diets without cultural knowledge https://www.mpg.de/25748327/orangutans-can-t-master-their-complex-diets-without-cultural-knowledge
Culture is critical in driving orangutan diet development past individual potentials https://doi.org/10.1038/s41562-025-02350-y

森の「食の達人」はどうやって育つのか?

オランウータンの食卓は、見た目よりはるかに複雑です。

南国の果物をむしゃむしゃ食べているだけに見えますが、実際には熟し具合を確かめ、硬い殻を割り、えぐみの強い部分を避け、季節ごとに全く違う種類の植物を選び分けています。

研究者の観察によると、成体のスマトラオランウータンはおよそ250種類もの食べ物を“扱える”といいます。

この数は、まるで料理番組のレシピのように手順が多く、人間のコンビニで売られている商品数と比べても引けを取らないようです。

これほどの食生活を、幼いオランウータンはどのように身につけているのでしょうか。

オランウータンの子どもは、生後まもなく母親の体にしがみつき、そこから数年間ほとんど離れずに過ごします。

母親が木の実を食べ始めれば、すぐそばでじっと見つめ、手の動かし方や実の割り方を観察します。

母親が森の奥へ移動すれば、そのあとをぴったりついていき、新しい木や食べられる場所を覚えます。

まるでレシピ本を読むのではなく、料理人の手元を見ながら技を覚えるような、実践型の学び方です。

今回の研究チームは、この「見て覚える」力がどれほど重要なのかを確かめるため、12年以上にわたって記録してきた野生オランウータンの詳細な行動データを用いて、幼いオランウータンがどのように知識を増やしていくのかをコンピュータ上で再現するモデルを作り上げました。

そのうえで、母親や周囲の個体を手本にできる場合と、「食べ物のある場所には一緒に行くものの、近くでじっくり観察したりまねしたりはできない」というように、手本からの学びが大きく制限された場合の2つのシナリオを比較しました。

結果は非常にわかりやすいものでした。

社会的な学習があるシナリオでは、幼い個体は成長とともに食べられる植物の種類をどんどん増やし、成体が持つ幅広い食レパートリーに近づいていきます。

一方、近くで誰かの行動を観察してまねすることができない条件では、覚えられる種類が大きく限られ、独り立ちの頃に必要と考えられるレベルには届かないことが示されたのです。

つまり、オランウータンの食生活は、単なる本能や偶然の積み重ねではありません。

それは長い時間をかけて母から子へと受け継がれてきた、文化的な知識のバトンであり、森で生き抜くための大切な“家庭の味”だったというわけです。

しかしなぜオランウータンは “文化” と呼べるほど複雑な食生活を持つようになったのでしょうか。

例えば、同じくらい知能の高いチンパンジーでも、文化的継承が必要なほどの複雑で多様な食のレパートリーは持っていません。オランウータンにはなぜそれが必要だったのでしょうか。

次ページ食の“文化”が生まれた必然:オランウータンだけが抱えた環境と進化の事情

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