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1日8缶のエナジードリンクを飲み続けた男性の症例報告 (2/3)

2025.12.14 12:00:36 Sunday

前ページ1日8本・カフェイン3倍超え:極端な飲み方が招いた症例

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助かったけれど元には戻らない? エナジードリンクが引き起こす脳・血管への負担

男性は治療によって命を取り留め、血圧も正常に戻りましたが、脳卒中による影響は完全には消えませんでした。

本人はその後の聞き取りの中で、「8年たった今でも、左手の指先や足の一部にしびれが残っている」と語っています。

日常生活では、細かな動作をするときに力が入りにくかったり、歩くときに足先の感覚がつかみにくかったりする場面があり、仕事や家事で思うように動けないことがあるといいます。

症状は命に関わるものではありませんが、長期間にわたり不自由を伴う後遺症であり、脳卒中が残す“目に見えにくい障害”をあらためて示しています。

では、なぜここまで血圧が危険な水準に達したのでしょうか。

大きな要因のひとつは、カフェインが血管や神経に与える生理的な作用です。

カフェインはアデノシン受容体(adenosine receptor)という場所に結合し、体をリラックスさせる働きを持つアデノシンの作用を妨げます。

その結果、血管が収縮しやすくなり、交感神経(sympathetic nervous system)という“体を興奮状態にするシステム”が強く働きます。

これらの作用が合わさることで、一時的に心拍数が上がり、血圧も押し上げられます。

通常であれば体が自然に元に戻しますが、極端な量を毎日取り続けると、人によっては血圧が慢性的に高い状態になりやすくなり、血管への負担が積み重なります。

さらに、エナジードリンクにはカフェイン以外の成分も複数含まれています。

タウリン(taurine)やジンセン(ginseng)、グルクロノラクトン(glucuronolactone)などが代表的で、配合目的は飲んだときの“元気”を強めることです。

特にガラナ/グアラナ(guarana)という成分は追加のカフェインを含んでいるため、表示されているカフェイン量以上の摂取につながる場合があります。

糖分も高濃度で含まれており、血糖値の急上昇や代謝への負担が血管系のストレスをさらに強める可能性があります。

こうした“隠れカフェイン”と複合成分の相乗効果が、一般的に血圧を押し上げ、心臓や血管への負担を強める可能性があり、今回の男性の高血圧にも関わっていたと医師らはみています。

今回の報告は1人の症例ですが、同様のケースは世界で少しずつ蓄積しています。

エナジードリンクの大量摂取が心筋梗塞や脳卒中の発症と関連したとする報告が複数あり、急性の「一気飲み」だけでなく、慢性的な飲みすぎも危険を高める可能性が示されています。

まだ決定的な因果関係が確立したわけではありませんが、医学的に注意するべき事例が増えていることは確かです。

そのため、この男性のケースは、“氷山の一角”にすぎないと考えられています。

医師らは、今回の症例から得られる教訓として、医療現場での聞き取りの重要性を強調しています。

特に若年〜中年で原因不明の高血圧や脳卒中が見られる場合、アルコールや喫煙だけでなく、エナジードリンクやサプリメントの摂取量も丁寧に確認する必要があると提案しています。

飲み物やサプリは習慣化しやすく、本人が正確な量を把握していないことも多いと考えられます。

さらに、社会全体での対応についても課題が示されています。

イギリスでは2018年に、大手スーパーが16歳未満へのエナジードリンク販売を自主的に制限しました。

今回の症例を踏まえ、研究チームは心血管リスクを踏まえたエナジードリンクの販売や広告ルールの強化など、国レベルでの規制を検討する価値があると提案しています。

日本でもエナジードリンクの利用者が増えているため、成分表示のわかりやすさや販売方法を見直す余地があると考えられます。

では、一般の私たちはどう気をつければよいのでしょうか。

まずは、自分が1日に摂っているカフェイン量をおおまかに把握することが大切です。

コーヒー、お茶、エナジードリンク、栄養ドリンク、サプリを合わせた総量が、健康な成人であれば400mg程度を目安に収まっているか確認するのが一つの基準になります。

高血圧や心臓病の持病がある人は、少量でも影響が強く出ることがあるため、医師と相談しながら調整することが望ましいとされています。

今回の症例は、エナジードリンクという身近な飲み物が、飲み方次第でどれほど大きな負荷を体に与えるかを示しています。

次ページ解説読むのが面倒な人向け「この報告に対するAIの反応」

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