北半球を覆った「巨大な古代海」
チームは、これらの堆積物が約33億7000万年前に形成されたと推定しています。
この時期は、火星史の中でも水が最も豊富だったと考えられている時代にあたります。
注目すべき点は、デルタ状堆積物が見つかった標高が、火星北部低地と連続する高さに揃っていることです。
このことから研究者たちは、マリネリス峡谷に注いでいた川が、最終的に「北半球全体に広がる巨大な海」に流れ込んでいたと結論づけました。
その規模は、地球の現在の北極海と少なくとも同程度と推定されています。
しかも、この海は局所的な湖ではなく、火星北半球を覆うほど広大だった可能性があります。
これまでにも火星に海があったという説は存在しました。
しかし過去の研究は、地形の曖昧な特徴や間接的な証拠に依存していた面がありました。
今回の研究の特徴は、高解像度画像に基づき、実際の「海岸線」を地形として復元した点にあります。
現在、これらのデルタ地形は風によって削られ、砂丘に覆われています。
それでも、その輪郭ははっきりと残っており、火星がかつて水に満ちていた時代の“地形の化石”として、今も静かに語りかけているのです。
赤い惑星が「青かった」時代
私たちは火星を、乾燥し、生命とは無縁に見える赤い世界として思い描きがちです。
しかし今回の研究は、火星がかつて地球に近い「水の惑星」だった可能性を具体的な地形証拠で示しました。
川が流れ、海が広がり、安定した水面が長く存在していたとすれば、生命が生まれる条件が一時的にでも整っていた可能性は否定できません。
火星の過去を知ることは、生命が誕生し、そして失われていく条件を理解する手がかりにもなります。
赤い惑星に刻まれた青い記憶。
火星研究は、惑星の未来だけでなく、地球自身の行く末を考えるヒントも与えてくれているのかもしれません。


























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