実験で「隕石衝突クラスの衝撃」を細菌に与えても生き延びた

隕石衝突クラスの衝撃に生命は耐えられるのか?
選ばれたのは放射線や乾燥にも負けない極限環境細菌・デイノコッカスで、これは「もし宇宙向きの生命がいるとしたら、こういうタイプかもしれない」というモデルとして用いられています。
(※残念ながら今回はクマムシさんはお休みです。)
研究チームはこの細菌を金属の板にはさみ、ガスで飛ばした板どうしをぶつけることで、岩片が宇宙に飛び出すときに近い一瞬の圧力(100万分の1秒)をかけました。
そして、そのあとに何個の細胞が増える力を保っているのか、どのくらい傷ついているのか、さらに細胞の中でどんな遺伝子が働き出すのかを、ていねいに調べていったのです。
その結果、1.4ギガパスカルという非常に高い圧力では、ほとんどすべての細菌が生き残っていることが分かりました(約95パーセント)。
さらに強い1.9ギガパスカルでも8割以上が生存し、2.4ギガパスカルというレベルでも、およそ6割の細胞がまだ増える力を保っていました。
さすがに2.9ギガパスカルあたりまで行くと一気に生存率が下がり、最大でも0.1パーセント(千個に一個)程度になりますが、それでも「完全にゼロ」にはなりません。
そこで研究チームは、この細菌が「どこまで耐えられるのか」を確かめるために、圧力をさらに上げようとしました。
ところが、先に壊れたのは機械のほうでした。
研究者たちの表現を借りれば「最終的に“死んだ”のは装置のほうで、プレートを支える鋼鉄の構造が細菌より先に壊れてしまった」のです。
また研究では衝撃後の極限環境細菌・デイノコッカスたちの「見た目」の変化も調べられました。
電子顕微鏡で細胞をのぞいてみると、1.4ギガパスカルの条件では、コントロールとほとんど区別がつかない、きれいな球形の細胞が並んでいます。
一方、2.4ギガパスカルの条件では、一部の細胞で表面の膜が破れ、中身がにじみ出ているような姿も見られました。
それでも、同じサンプルの中には無傷に見える細胞も多数残っており「一発くらいなら平気そう」と言える状態にありました。
コラム:クマムシはどのくらい耐えられる?
タフで有名なクマムシは、最大7.5ギガパスカルの水圧を数時間かけてもほぼ全てが生き残ることが報告されています。7.5ギガパスカルは地球内部の上部マントル中ほどの圧力に相当するレベルです。しかし今回の研究で試したような一瞬の衝撃としてかけると、クマムシの場合はおよそ1.1ギガパスカルあたりが限界だと考えられています。
さらに踏み込んで、細胞の中の遺伝子の働き方も調べられました。
強い圧力を受けたあとの細胞からRNA(遺伝子の読み出しの記録)を取り出し、その種類と量の変化を解析すると、2.4ギガパスカルの条件では、DNAの修理や、ダメージから身を守るしくみに関わる遺伝子が強く働き始めていることが分かりました。
反対に、「どんどん増えよう」とする増殖系の遺伝子の働きは弱まり、「今は増えるよりも、とにかく体制を立て直そう」と細胞が動いていると解釈できます。
一方、過去に行われた研究では、大腸菌のようなふつうの細菌や、別のモデル生物たちは、同じ1〜3ギガパスカルの圧力で、多くが100分の1から1万分の1といったレベルまで生存率が落ちてしまうことが示されており極限環境細菌・デイノコッカスのタフさが際立ちます。
コラム:「2.9GPa」は宇宙へ飛び出し得る範囲
物理学に詳しい人ならば「巨大隕石衝突でかかる圧力はもっと高いはずだ」と言うかもしれません。確かに直撃点ど真ん中では数十ギガパスカル級という、とてつもない圧力と高温にさらされ、どろどろに溶けたり、そもそも岩石が蒸発(気化)してしまいます。しかし衝突の影響はその一点だけに留まりません。少し離れた周辺部では衝撃波という“見えない衝撃の波”が岩の中を走り、その結果、表面のごく薄い層だけがペリッとはがれて、板状の岩片として飛び出すことがあるのです。これは地殻ごとめくれあがって持ち上がる「地殻の津波」のような巨大スケールではなく、表面数メートルくらいの“カサブタがはがれる”ような現象だと考えるとイメージしやすいと思います。そして、この薄い岩片は、場所によっては惑星の重力を振り切るくらいの速さを与えられ、宇宙空間へ放り出されることがあり得るのです。今回の論文が注目している1.4〜2.4ギガパスカルという圧力の強さは、出発元を火星と想定すると、岩片が宇宙に飛び出すときに想定される圧力の範囲に含まれていると言えます。
こうして見ると、今回の実験は「火星から飛び出すときの一撃」という条件について、「少なくともある種類の極限細菌なら、かなりの割合で生き延びられる」という答えを出したことになります。
しかし「惑星間を旅する細菌」という話で一段目のハードルが思ったほど高くなかった、という事実は、生命のたくましさを考え直させるものです。


























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