見せびらかしは「支配」の衝動だった

もうひとつ、見逃せない発見があります。
社会的地位を手に入れるルートには大きく2種類あります。力や財力で周囲を圧倒する「支配(dominance)」と、スキルや人柄で自然と尊敬を集める「名声(prestige)」です。
研究の結果、愛着不安が駆り立てるのは「支配」型だけでした。名声型とは一切結びつかなかったのです。
考えてみると、これは筋が通っています。
名声は長い時間をかけてスキルや信頼を積み上げて初めて手に入るもの。
一方で支配は、高級車を一台買うだけで「今すぐ」格の違いを見せつけることができます。
じっくり実力を磨くより、手っ取り早くモノで圧倒する。「愛されている確証が持てない」という不安を抱えた人が、即効性のあるほうに手を伸ばすのは、ある意味で自然な心の動きなのかもしれません。
ただし著者らは、ひとつ残酷な留保をつけています。
愛着不安の高い人は地位を「追い求める」けれど、外向性が低く情緒が不安定な傾向があるため、実際に地位を「手に入れられる」とは限らない、と。
追い求めるほどには報われない可能性があるという皮肉な傾向です。
なおこの効果は男女を問わず確認されており、恋人だけでなく親や友人との関係における不安でも同じパターンが生じています。
研究チームは「愛着不安の強い人は、満たされない人間関係の穴を埋めるために地位を追求し、同性のライバルとの競争を通じてそれを実行しているのだろう」と結論づけています。
(※ただ今回の参加者は主にシスジェンダーの異性愛者に限られており、LGBTQ+などを含む調査は今後の課題です)
もしあなたの身近に、やたらとブランド品やステータスの高い持ち物をアピールする人がいるなら、その人が本当に求めているのは他人の羨望ではなく、「自分はここにいていい」という安心感なのかもしれません。
まとめ:「恋愛の不安」と「人間関係の不安」が絡み合い高級品を求めるようになる
- 人間関係全般に言えること
「自分は大切にされていないかもしれない」という不安を慢性的に感じやすい人は、高級車や豪邸といったステータスの象徴を欲しがる傾向がある。この関連は、恋人との関係に限った話ではありませんでした。
今回の研究では、参加者を「恋人のことを思い浮かべながら回答する」グループと「親やきょうだい、友人のことを思い浮かべながら回答する」グループに分けて比較しています。結果はどちらも同じでした。
つまり「人間関係の不安が地位への執着につながる」という大枠は、相手が恋人であれ家族であれ友人であれ、変わらないということです。
なぜか。おそらくそれは、この不安が「あの人との関係」に限った問題ではなく、「人とのつながり方」の根本的なクセだからでしょう。幼い頃の親との関わり方から無意識に身についた「自分は見捨てられるかもしれない」という感覚は、人生のあらゆる関係に顔を出します。そしてその満たされなさを、地位や高級品という目に見える形で埋め合わせようとする衝動が生まれるのだと考えられます。
- 恋愛について言えること
ここまでは「不安があると高級品が欲しくなる」という話ですが、研究チームはさらに踏み込んで、その不安が高級品への欲求に変わる「通り道」まで突き止めています。
その通り道は、同性のライバルへの対抗心でした。
実験では、参加者にこんな場面を想像してもらいました。「ずっと独身だったが、ついに理想の相手に出会った。でもその人を狙っている同性のライバルが3人いる」。するとこの状況を想像しただけで、高級住宅への欲求が跳ね上がったのです。逆に「ライバルはいない」と伝えると、その欲求は静まりました。
なぜ恋のライバルがステータスの欲求を刺激するのか。それは、高級品の「見せびらかし」がそもそも「自分は恋愛相手として価値がある人間だ」と同性のライバルに知らしめるためのアピール手段として進化してきた可能性があるからです。鹿が立派な角でライバルを牽制するのと根本的には同じ原理です。
この「ライバルのスイッチ」を実験で入れたり切ったりできたのは、恋愛の競争場面だけです。友人関係のライバルで同じことが起きるかは、まだ検証されていません。
- 両方をつなげると見えてくること
人間関係の不安は、相手が恋人でも親でも友人でも同じように地位への執着を生みます。でもその不安が「フェラーリが欲しい」「豪邸に住みたい」という具体的な形になるとき、心の中では恋のライバルへの対抗心という、もっと原始的なスイッチが入っているようです。
たとえば友人関係に不安を抱えている人が高級時計を欲しがるとき、その不安の発端は友人関係かもしれません。でもそれを「ステータスで自分の価値を見せつけたい」という衝動に変換する回路は、「恋敵に負けたくない」という古い本能的な仕組みを通っている。そう考えると、あの見せびらかしの根っこにあるのは「モノが欲しい」という欲望ではなく、「自分は誰かに選ばれるに値する人間なのだ」と確かめたい切実な気持ちなのかもしれません。


























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