糞に残った「母乳の証拠」が6年半の授乳を証明!
そこでチームが用いたのが「糞プロテオミクス」という方法です。
プロテオミクスとは、試料の中に含まれるタンパク質を網羅的に調べる分析法です。
子どもが母乳を飲むと、その成分の一部は消化されずに糞の中へ残ります。
オランウータンの母乳には、母乳にしか含まれない母乳特異的タンパク質が4種類あります。
そのため、子どもの糞からこれらのタンパク質が見つかれば、その個体が糞をした時点で母乳を飲んでいたことを直接示す証拠になるのです。
チームは、マレーシア・サバ州のダナムバレイ保護区に生息する野生のボルネオオランウータンを対象に調査を実施。
現地の研究アシスタントの協力を得ながら、2年7カ月にわたり、個体識別された子どもの糞20点を集めて分析しました。
その結果、2歳8カ月から6歳6カ月までのすべての子どもの糞から、母乳特異的タンパク質が検出されたのです。
つまり、野生のオランウータンの子どもは、少なくとも生後6年半まで切れ目なく母乳を摂取していることになります。
さらにチームは、母乳特異的タンパク質と、生体防御に関わるタンパク質、そして腸内環境を整える細菌に由来するタンパク質の関係も調査。
その結果、母乳を多く摂取している子どもほど、消化管内の生体防御が高まり、腸内環境を整えるバクテリアの存在量も多い可能性が示されました。
母乳は単なる栄養補給ではなく、子どもの免疫や腸内環境を支える役割も持っていると考えられます。
この長い授乳期間は、オランウータンの極めて高い子どもの生存率にも関わっている可能性があります。
一方で、母乳の分泌は母親の次の妊娠を遅らせる効果があります。
つまり、長く授乳することは、少ない子どもを確実に育てる助けになる反面、個体数の回復を非常に遅くする要因にもなります。
オランウータンは現存する3種すべてが、国際自然保護連合のレッドリストで最も絶滅の危険性が高い「近絶滅種」とされています。
森林破壊などで個体数が減ったとしても、オランウータンは繁殖ペースを簡単に上げることができません。
今回の研究は、「6歳半まで母乳を飲む」という驚くべき生態を明らかにしただけではありません。
それは、オランウータンがどれほど時間をかけて次世代を育てる動物なのか、そして一度失われた個体群を取り戻すことがどれほど難しいのかを教えてくれるものです。
森の中で母親に寄り添いながら長く育つ子どもたちを守るためには、残された熱帯雨林そのものを守ることが欠かせないのです。



















































