核から脱走したDNAが隣の細胞に薬剤耐性を授けていた

渡されたDNAは、新しい家のなかで、ただのお荷物なのでしょうか。
それとも、きちんと仕事をするのでしょうか。
直感的には、よそから来た断片など、受け取った細胞が使いこなせるはずがないように思えます。
しかし研究チームが追跡を続けたところ、話はまるで違いました。
受け取られたDNAは、細胞質から核へと入り込みます。
さらに時間がたつと、もとはよそ者だったはずのDNAに、受け取った細胞自身のタンパク質(ヒストン)が巻きつき始めます。
新入りが、すっかり”うちの子”として扱われるようになったのです。
こうして、何度分裂を繰り返しても、そのDNAは消えずに残り続けました。
では、そのDNAは、実際に”使える”性質まで運べるのでしょうか。
これを確かめるために、研究チームは少しだけ意地悪な実験を組みました。
まず、提供側の細胞のY染色体に、細胞にとって毒性がある薬(G418)への耐性遺伝子をあらかじめ仕込んでおきます。
一方、受け取り側の細胞には、その耐性をいっさい持たせません。
つまり、この薬を振りかければ、受け取り側はバタバタと死んでいくはずです。
この状態で提供側のY染色体をわざと小核へ追い出し、両者を一緒に育ててから、薬を加えました。
結果、死ぬはずの受け取り側細胞のなかから、薬に負けずに生き延びる集団が現れたのです。
その数は、何も操作しなかった場合とくらべて最大で55倍。
隣の席からそっと答案を回してもらった”カンニング”が、みごとに成功したわけです。
生き延びた細胞を調べると、提供側由来の耐性遺伝子は、染色体には組み込まれず、独立した小さなDNA(ecDNA)としてひっそりと保たれていました。
じつはこのecDNA(染色体外DNA)は、さまざまながんで見つかる”おなじみの悪役”で、がんを悪化させる遺伝子を異常に増やし、薬を効きにくくすることが、以前から世界中で盛んに研究されてきました。
ですが今回の研究では、このecDNAが細胞内で自作されただけでなく、隣の細胞から受け取ったDNAとしても住みつきうることが示されたのです。
「2つの細胞が丸ごと合体しただけでは?」という当然の疑いにも、研究チームはきっちり答えを出しています。
もし細胞が融合したのなら、両方の染色体をすべて抱えた細胞になるはずです。
ところが、耐性を得た細胞では、染色体の数はもとの受け取り側とほぼ同じで、そこにちょこんと耐性遺伝子のかけらだけが加わっていました。
丸ごとの合体ではなく、あくまで”一部のDNAだけが渡った”結果だと考えられます。
これらの結果は「DNAは確かにおとなりへ渡る」「渡ったDNAはきちんと働く」「子孫にまで受け継がれる」「細胞の合体ではない」ということをかなり明確に示しています。


























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