ストレスがセックスを呼び、セックスが進化を動かした

なぜある時を境にセックスが広く使われるようになったのか?
ヒントは「どこで生きるか?」という場所の問題に隠れていました。
実は、これまで見てきたエディアカラ紀の楽園は、深い海の底で繰り広げられていた光景だったのです。
光もほとんど届かず、潮の流れも穏やか。嵐もまず届かない、まさに「変わる必要のない世界」でした。
研究チームが分析した化石も、当時の深海に相当する場所から発掘されたものです。
ところが時代が進むにつれ、子孫たちの一部が少しずつ生息域を広げ、より浅い海へとにじり出ていきました。
彼らがなぜ、どうやって浅瀬に進出したのか、化石からはっきりしたことはまだ分かっていません。
それでも事実として、後の時代の化石はより浅い海の地層から見つかるようになっていきます。
そして浅い海は、深海とはまったく別世界でした。
嵐が来る。潮の満ち引きで激しく環境が変わる。水温も急変する。
論文によれば、深海では群集ごと一掃されるような大量死イベントが10年から100年、場合によっては1000年に一度ほどだったのに対し、浅い海では年に2〜3回も起きていたといいます。
この環境の激変が、彼らの繁殖方法の「スイッチ」をクローンからセックスへ切り替えたと研究チームは考えています。
つながったクローンは、親のすぐそばにしか増えられません。
ところがセックスで生まれた子は事情が違います。
卵や精子のような繁殖体として水中に放たれ、出会って新しい個体となり、やがて水流に乗って親元から遠く離れた場所まで漂っていけるのです。
子どもが遠くへ散らばれば、見知らぬ他者とぶつかり、ぶつかれば、食べ物や場所をめぐる競争が始まります。
こうして、何千万年も止まっていた自然選択のエンジンが、ようやく回り出したのです。
そして繁殖様式と新たな生息地に適応するにつれて、それに伴って多様化が進み、この過程は、動物が移動能力を獲得したカンブリア紀にさらに加速したと考えられます。
ミッチェル博士は「もし突然、年に何回も殺されかけるような環境に置かれたら、すべてが変わります。ストレスは本質的に有性生殖を引き起こすんです」と語っています。
進化のスピードを決めているのは遺伝子の変異だけではなく、「どう散らばり、どう競い合うか」というもっと泥臭い仕組みも重要なのでしょう。
快適すぎる環境はむしろ変化を止めてしまう――この逆説は、エディアカラ紀の海底だけでなく、生命そのものに通じる逆説なのかもしれません。
もしかしたら未来の世界では、「生き物にとって本当に良い環境とは何か?」という問いに対して、「少しだけ不便な場所」という意外な答えが定説になっているかもしれません。





























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