うんちの形を決める普遍的な物理法則

1880年11月、ダーウィンは友人に宛てた手紙にこう書いています。
「いまの私は、魂のすべてが、ミミズに吸い込まれているのだ!」
冗談ではありません。本当に、感嘆符つきで、そう書いたのです。
そして翌1881年、ダーウィンは最後の単著を出版します。
タイトルは『ミミズの作用による肥沃土の形成、ならびにその習性の観察』。
なんと一冊まるごと、ミミズのフンと土をめぐる研究書でした。
その本のなかで、ダーウィンは細密な図版とともに、こんな観察を残しています。
「ミミズは、巣穴の斜面に対して、上向きにも下向きにも排便する」
「ミミズのフンは、塔のように積み上がった、ふしぎな渦巻きの形をしている」
晩年のダーウィンはミミズのフンに情熱を注いでいた様子がうかがえます。
ただ残念なことにダーウィンの時代には、やわらかなものを扱う「ソフトマター物理学」は未熟で、「やわらかいものは、押し出されると巻いてしまう」というコイリング現象も十分に調べられていませんでした。
そのため「なぜ、ミミズのフンはそんな形になるのか」という肝心の問いには、答えを出せませんでした。
しかしボン教授はソフトマター物理学が専門で、しかもこの種のコイリング現象を長く牽引してきた物理学者の一人でした。
実際、ボン教授は2007年にハビビ博士やリベ博士と共に「素材の硬さ」「素材の太さ」「素材の重さ」「重力の強さ」という4つの数字を放り込めば、渦巻きの大きさが計算できるとする「弾性ロープのコイリング理論」を発表しました。
もしうんちの渦巻きが、ロープや熱したガラスと同じ物理法則に従っているなら、このコイリング理論でうんちの形も説明できるはずです。
そこでボン教授はかつての仲間と一緒に、ラグワームのフンが「物質として」どんな性質を持っているかを測り、豆の粉を水で練った生地でそのやわらかさを再現しました。
そしてラグワームのフンのように、注射器で下から上へ押し出してみます。
すると本物のラグワームの糞とそっくりの、きれいな渦巻きの塔ができあがりました。
さらに研究者たちは、柔らかく戻したスパゲッティやライスヌードル(米でできた麺)など材料を変えて実験を繰り返しました。
結果、調べたどの素材でも、うんちの渦巻き形を決めていたのは理論通り、素材の太さ・硬さ・密度、そして重力の強さでした。
たとえば素材はやわらかいほど渦巻きは小さくなり、硬いほど大きくなります。
そして重力方向、上から下に向かって出せば、山が育つにつれて落ちる距離が減り、渦巻きは最初は大きく、上にいくにつれて巻きの半径が小さくなり、山全体が先細りします。
一方、下から上に向かうと、落ちる距離がそもそも関係なくなり、渦巻きは最初から最後まで巻きの半径を一定に保つことが示されました。
たった素材の太さ・硬さ・密度、そして重力の影響を変えるだけで、ソフトクリーム型にもなれば、ミミズ型の均一な筒型にもなる。
そのどちらも、同じ一つのコイリング理論が支配していました。
実際、チームが全データをまとめてグラフにすると、ラグワームの糞、豆の生地、スパゲッティ、ライスヌードル――今回調べた4種類のデータ点が、理論が予測する傾きにそって、一本の帯のように並びました。
その傾きつまり「どんな割合で変化するか」は0.31。理論の予測値0.33(3分の1)に、とてもよく一致しました。
ダーウィンが140年前に眺めて不思議に思った渦巻きの形は、こうしてラグワームを通じて、物理的に説明できる道筋がつきました。
そしてこの視点は、うんちだけの話にとどまりません。
外から引っぱられることなく、やわらかいものがただ押し出される現象――たとえば一部の植物が伸びていく様子などにも、同じ受け身の渦巻きが潜んでいるかもしれない、とチームは見ています。
ちなみにクモが糸を張るときは、自分でぴんと糸を引っぱって張力をかけるため、逆に巻きが抑えられる。これは正反対のしくみなのだそうです。





























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