VRでアインシュタインになりきると… ?
結果は、かなりはっきりしていました。
アインシュタインのアバターになった参加者では、高齢者に対する暗黙の年齢差別が有意に低下していたのです。
中立的な高齢者アバターでも、より小さいながら有意な低下が見られました。
一方で、中立的な若者アバターではほとんど変化がなく、また否定的な高齢者アバターであるナスララ条件でも、年齢差別が強まることはありませんでした。
ここで大切なのは、「高齢者の姿になるだけ」では効果が最大にならなかったことです。
普通の高齢者アバターでも偏見は少し弱まりましたが、最も大きな変化が出たのはアインシュタインでした。
つまりVRの身体化では、年齢そのものだけでなく、その人物がもつ社会的な意味が効いている可能性があります。
アインシュタインは、多くの人にとって「高齢」「知性」「偉業」「尊敬」と結びつく存在です。
その姿を自分の身体として体験することで、参加者の中で「高齢者=否定的」という自動的な結びつきが一時的にゆるんだのかもしれません。

では、このVR体験によって実際の採用判断まで変わったのでしょうか。
チームは、参加者に60歳の男性求職者の履歴書を見せ、採用したいかどうかを評価させました。
その結果、アインシュタイン条件や中立的な高齢者条件では、若者アバター条件よりも採用に前向きな傾向がありました。
しかし、全体として統計的に有意な差には達していません。
そのため、「VRで採用差別が改善した」とまでは言えません。
今回の研究が強く示したのは、あくまで心の奥にある自動的な年齢バイアスが、短時間のVR体験で変化しうるという点です。
また、本人が意識して答える明示的な年齢差別の評価には、アバター条件による有意差は見られませんでした。
これは一見すると不思議ですが、偏見研究ではよく見られる現象です。
人は「自分は高齢者を差別していない」と答えていても、反射的な連想のレベルでは別の反応を示すことがあります。
VRは、その表に出にくい自動的な連想に働きかけた可能性があるのです。
とはいえ、この研究には限界もあります。
参加者は若いイスラエル人男性に限られており、女性や他文化、実際の人事担当者にも同じ効果が出るかは分かりません。
また、効果が数日後、数週間後、数カ月後まで続くのかも未検証です。
研究でも、今後はより多様な参加者や長期追跡、実際の職場に近い場面での検証が必要だとされています。
それでも今回の結果は、偏見を変える方法について興味深い視点を与えてくれます。
私たちは普段、「考え方を変えよう」と頭で努力しがちです。
しかしVRでは、先に「身体の感覚」を変えることで、心の奥にある連想が少し動く可能性があります。
アインシュタインになる体験は、参加者に天才の頭脳を与えたわけではありません。
けれども、高齢者を見る目をほんの少し変えた可能性があります。
未来の職場研修では、講義を聞く代わりに、数分間だけ過去の偉人の身体を生きてみる時間が取り入れられるかもしれません。

























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