辛味は「強い熱痛」にだけ影響した
辛いゼラチンを口に含んだ条件では、辛くないゼラチンの条件と比べて、強いレーザー刺激に対する「痛みの強さ」と「不快さ」がともに有意に低く評価されました。
しかし弱いレーザー刺激では、辛味の有無による有意な差は確認されませんでした。
つまり、辛味があらゆる痛みを一律に消したわけではありません。
今回確認されたのは、強い実験的熱痛に限って現れた、痛みの強さに応じて変化する作用です。
ここでいう痛みの強さとは、刺激がどの程度激しく感じられたかを指します。
一方、不快さとは、その刺激をどれほど嫌でつらいと感じたかという感情的な側面です。
この両方の評価が低下したことから、口内の辛味は強い熱痛の感覚だけでなく、それに伴う嫌悪感にも影響した可能性があります。
ではなぜ、辛みが身体的な強い痛みを和らげたのでしょうか。
考えられる原因の1つは、「体の一部に強い不快刺激が加わると、別の場所で感じる痛みを抑える体内の仕組み」です。
簡単に言えば、「ある痛みが別の痛みを抑える」反応です。
口の中の焼けるような辛味がこの仕組みを作動させ、手から伝わる強い熱痛を弱めた可能性があるのです。
一方で、強い辛さに注意を奪われ、手の痛みに集中しにくくなった可能性もあります。
カプサイシンによって体内の鎮痛物質が放出された可能性も考えられますが、今回の研究では脳活動や神経信号、注意の向き、鎮痛物質の量を直接測定していません。
そのため、詳しい仕組みはまだ分かっていません。
また、普段から辛いものを強く好む人ほど、質問票で測定した痛みへの感受性と恐怖が低い傾向も見られました。
ただし、これは相関関係にすぎません。
辛いものを食べ続けたために痛みに強くなったのか、もともと強い刺激に耐えやすい人が辛いものを好むのかは、この研究から判断できません。
また今回の参加者は48人の健康な若者に限られ、調べられたのも短時間のレーザー熱痛だけです。
頭痛、歯痛、けが、慢性痛などに同じ効果が現れるかは不明であり、唐辛子が鎮痛薬の代わりになるわけでもありません。
それでも今回の結果は、口内の辛味刺激が、体の別の場所で感じる強い痛みの処理に影響する可能性を示唆しています。
口の中の「辛い」が別の場所の「痛い」を弱めるという現象は、人間の痛覚が持つ柔軟な仕組みを知るための手がかりになるでしょう。




























