Credit:OpenAI,ナゾロジー編集部
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「交尾後メスに食べられる」セアカゴケグモの奇妙な行動は、遺伝的には意外と単純だった (2/2)

2026.08.16 12:00:28 Sunday

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意外にも単純な遺伝と自然選択だった可能性

この疑問を調べる上で研究者たちが利用したのが、ニュージーランドのカティポ(Latrodectus katipo)というセアカゴケグモの近縁種です。

カティボは約10万年にセアカゴケグモと枝分かれしたかなり近い種ですが、交尾行動は大きく異なります。

セアカゴケグモではオスが交尾中に宙返りして、メスによる共食いが起こります。

一方、カティポでは、オスは交尾中に宙返りなどせず、また腹部収縮も起こさず、メスによる交尾中の共食いも起きません。

そして、興味深いのがこの近縁の二種で交尾をさせた場合です。

セアカゴケグモのオスをカティポのメスと交尾させると、オスはいつも通り腹部収縮を起こし、交尾中に宙返りをするのです。

相手のカティポのメスはオスを食べないにもかかわらず、オスは延命行動しつつ腹部をその口元へ差し出すのです。

そのためセアカゴケグモのオスが宙返りや腹部収縮をするのは、自分がこれからすることの意味をわかってやっているわけではなく、遺伝的な性質から起きている行動だとわかります。

ではその遺伝子はどのように継承されるのでしょうか?

これを確かめるため研究チームはまず、カティポのメスとセアカゴケグモのオスを交配させて雑種のメスを作りました。

さらにその雑種メスを、セアカゴケグモまたはカティポのオスと再び交配させる「戻し交配」を行い、さまざまな遺伝的組み合わせを持つオスを誕生させました。

そして得られたオスを、共食いをしないカティポのメスと交尾させました。相手をカティポにするのは共食いされずに何度も交尾の様子を観察するためです。

実験では228回の交尾試験が行われ、そのうち交尾に成功した104匹の戻し交配オスについて行動が分析されました。

研究者たちが事前に立てていた仮説は、宙返りと腹部収縮の2つの行動が同じX染色体上で密接につながった遺伝領域によって制御され、セットで受け継がれるというものでした。

この2つの行動はセットでなければ意味がないため、一緒に継承されていく性質だと考えていたのです。

ところが結果は、この予想を支持しませんでした。

交尾宙返りと腹部収縮は頻繁に別々に現れ、この2つの行動は密接に連鎖していないことがわかったのです。

さらに大きな発見が、交尾宙返りはかなり単純な遺伝パターンの可能性が示されたことです。

研究チームが交配によって生まれたオスたちを調べると、「宙返りをする個体」と「しない個体」は、複雑に入り混じるのではなく、かなり単純な遺伝のルールに従って現れていました。

この出現パターンは、もし宙返りに関わる遺伝情報がX染色体上の1つの領域にあると考えると一致するようなパターンでした。

つまり、メスの牙へ腹部を差し出すという一見自殺行為のように見える行動が、X染色体上のごく限られた遺伝的領域の違いによって「する・しない」に分かれている可能性が示されたのです。

ただ、これは宙返りが単一の遺伝子という意味ではありません。研究者たちは、該当するX染色体上の領域に複数の遺伝子がまとまった「スーパー遺伝子」が存在する可能性も残しています。

なぜ共食いされるという進化が起きるのか?

進化については、人によって説明の仕方が異なりますが、生物の戦略という考え方はあまり適切ではありません。

生物自体には将来を予測する意思も、目標もないからです。

たとえば祖先集団の中に、遺伝的な違いによって交尾中の姿勢や動きが少し異なるオスが存在し、その中で特定の行動をするオスが、結果的に多くの子を残したとします。

すると、その行動に関係する遺伝的要因は次世代へ伝わりやすくなります。

これが何世代も繰り返されれば、最終的にその行動は、その種にとっての普通の行動になります。

セアカゴケグモの場合、そもそも共食いされる進化をしたというより、交尾中ひっくり返るという行動が結果的に自分の子供を残しやすかったために徐々に種に広まり、そこに腹部収縮という行動も合流していったと言えるのでしょう。

私たちはつい、複雑な行動には必ず複雑な遺伝的仕組みが必要だと考えてしまいます。

しかし今回の結果は、動物の行動が大きく変化するために、必ずしもゲノム全体にわたる大量の変化が必要とは限らないことを示しています。

ただし、まだ最大の謎が残っています。

今回明らかになったのは「宙返りするかどうか」がどう遺伝するのかというパターンの部分です。具体的にどの遺伝子が、どの神経回路を通じてオスを宙返りさせているのかは分かっていません。

まして、交尾中に危険が迫っても逃げずにメスの牙へ体を差し出すとき、通常の逃避行動が神経系でどのように扱われているのかも今回の研究対象ではありません。

研究チームも、今後はゲノム解析によって実際に関与する遺伝子と染色体上の位置を特定する必要があるとしています。

今回の研究が見せてくれるのは、機械的で、それゆえに不思議さを感じる進化の姿です。

ある行動を生み出す遺伝的性質が、結果としてより多く次世代へ受け継がれるなら、その行動が個体の死につながるものであっても自然選択によって残っていくことになるのでしょう。

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