長寿者の免疫は「未知の敵」より「体内に居座る敵」へ重点を移す?
では、なぜ超高齢になると、こうした特殊なT細胞が増えるのでしょうか。
研究チームが注目しているのが、長期間にわたって体内に存在し続ける脅威です。
CD4 CTLを詳しく調べると、同じ特徴を持った細胞が大量にコピーされていました。
中でも最も大きく増えたクローンは、CD4 CTL全体の平均33.3%を占めていました。
これは、ある特定の標的に繰り返し遭遇することで、その相手に対応するT細胞が何度も増殖してきた可能性を示しています。
さらに研究チームは、長寿者で増えていたCD4 CTLが「どのような敵に反応しているのか」を探るため、敵を見分ける受容体(TCR)の配列を詳しく分析しました。
その結果、一部のCD4 CTLが持つ受容体は、がんに関連する免疫反応で確認されているT細胞の受容体と一致していました。
特に、非小細胞肺がんや乳がん、肝細胞がんに関連する受容体との一致が確認されています。
興味深いことに、今回調べられた100歳以上、110歳以上の参加者には、これら3種類のがんの既往歴は確認されていませんでした。
このことから研究チームは、長寿者で増えていたCD4 CTLの一部が、まだ病気として表面化していない段階から、がんに関係する異常を捉えて反応していた可能性を考えています。
また、CD4 CTLが狙う可能性があるのは、がんだけではありません。
過去の研究では、CD4 CTLが老化細胞を排除したり、体内に長期間潜伏しているウイルスに反応したりすることも報告されています。
今回の論文でも、腫瘍、老化細胞、再活性化した潜伏ウイルスなどが、加齢した体内で長期的な標的となり得るものとして挙げられています。
ここから見えてくるのが、長寿者における免疫戦略の変化です。
若い人の免疫には、まだ出会ったことのない細菌やウイルスなど、多種多様な敵に対応することが求められます。
そのため若い時期には、さまざまな標的を見分けられる多様なT細胞をそろえておくことが重要です。
しかし年齢を重ねるにつれて、状況は変わります。
体内では、老化細胞や異常細胞、潜伏ウイルスなど、一度現れるとなかなか消えない「長期的な敵」が増えていきます。
研究チームは、こうした変化に合わせて高齢者の免疫が、「さまざまな未知の敵に広く備える戦略」から、「長年体内に存在する特定の敵を重点的に監視する戦略」へ移っていった可能性を考えています。
そして110歳以上まで生きる人々では、その変化の一つとして、本来は司令役だったCD4 T細胞の一部がCD4 CTLへと変化し、自ら危険な細胞を攻撃するようになっていたのです。
しかも、これらのCD4 CTLは、免疫細胞が働きすぎて機能を失う「疲弊」の特徴があまり見られませんでした。
長寿の人の体内では、疲れ知らずの司令官が自ら長年の敵と闘っているような状況なのかもしれません。
ただしCD4 CTLは、多ければ多いほどよい細胞というわけではありません。
過剰に増えれば、自己免疫疾患や心血管疾患、慢性的な炎症などに関係する場合もあり、研究者らもCD4 CTLを「諸刃の剣」と表現しています。
それでも今回の研究は、健康長寿について興味深い見方を提示しています。
110歳まで生きる人は、年齢とともに体内の環境が変化していく中で、免疫の司令役だった細胞まで戦闘員へと変え、がんや老化細胞などの長期的な脅威に対応する新しい防衛体制を築いている可能性があるのです。
長寿の秘密は、若さをそのまま保つことではなく、老化した体に合わせて「戦い方を変え続けられること」にあるのかもしれません。
































