振動に反応するニューロンがクリトリスとペニスで発見
私たちの皮膚にはさまざまな刺激に対して反応する神経組織が存在します。
例えば、無毛の皮膚に存在するマイスナー小体は、軽い触感を担当しており、手指の器用さを支えます。
一方、毛や髪が生えている皮膚では、毛包を取り囲む神経組織が、毛髪のたわみに対する感覚を感知して「毛に触れた感覚」を発信します。
これまでの研究により、このような感覚器官の性質や役割は、無毛皮膚や有毛皮膚といった部位に関してはかなり理解が深まってきました。
しかし、哺乳類の性器に存在する感覚器官については、あまり理解が進んでいません。
その代表的な例が性器や粘膜に存在する「クラウゼ小体」です。
19世紀後半、ヴィルヘルム・クラウゼは、性器や、唇、舌、眼球結膜などの粘膜皮膚組織に球形のニューロン塊が存在することをはじめて発見し「クラウゼ小体」と名付けました。
ただクラウゼ小体がいったいどんな役割を担っているかは多くが、謎につつまれていました。
そこで今回、ハーバード大学の研究者たちは現代の技術を用いて、性器に存在するクラウゼ小体の分布や役割を調べることにしました。
調査にあたってはまず神経の可視化が行われ、マウスのクリトリスやペニスに存在するクラウゼ小体の数や密度が調べられました。
するとマウスのクリトリスとペニスにはほぼ同量のクラウゼ小体が存在することが判明。
ただマウスの場合も人間と同じくクリトリスはペニスに比べて遥かに小さくなっているため、クリトリスのクラウゼ小体の密度はペニスの15倍にも及んでいました。
この数は敏感であることが知られているマウスの指先の感覚を司るマイスナー小体の3倍に及びました。
次に研究者たちはマウスのクリトリスとペニスにさまざまな刺激を与え、クラウゼ小体がどんな刺激に最も反応し強い電気信号を発するかを調べました。
結果、40-80Hzの機械的振動と絵筆による刺激に最も強く反応することが判明。
また興味深いことに、この40-80Hzという振動は、人間が性的刺激のために使用するデバイスの振動周期と一致していました。
そのため研究者たちは、クラウゼ小体は性行為にともなう微細な皮膚と皮膚の接触による振動を検知するために存在していると推察しました。
またクラウゼ小体から発せられた電気信号を追跡すると脊髄に伝達され、クリトリスやペニスの勃起や射精を調整している可能性が示されました。
さらに研究者たちは、雄マウスの遺伝子操作を行い、物理的接触ではなく青色光を照射することでクラウゼ小体のニューロンが活性化するようにしました。
そして、その雄マウスのペニスに向けて適切なタイミングで青い光を照射したところ、すべてのマウスのペニスに勃起が起こりました。
(※クリトリスの変化は観察しにくいため青色光を使った実験はメスでは行われませんでした)
一方、遺伝子操作を行ってクラウゼ小体が形成されないようにしたオスはメスとカップリングしても、性行為を開始するまで時間がかかり、性行為をはじめたとしても早く終わってしまい、射精する率も低下しました。
また同様の遺伝子操作でクラウゼ小体を失ったメスはオスとカップリングしても、オスの性的誘惑をあまり受容しにくく、通常のメスよりも早く性交を終了する傾向がありました。
この結果は、クラウゼ小体が性行動と快感の両方を支える神経メカニズムを支えており、健康な性機能、特に快感において重要な働きを担っている可能性を示唆します。
また研究者たちは解剖学的に人間とマウスのクラウゼ小体は似ているため、人間でも同様の機能を果たしている可能性があると指摘しています。
現在、振動機能を持ったバイブレーターが男性女性の両方の性機能障害の治療に効果的であることが知られていますが、その背後にはクラウゼ小体を通じた刺激という共通のメカニズムが存在する可能性があります。
特定の周波数をもった振動や絵筆など特定の強さの刺激によって活性化するニューロンが種を超えて存在するという事実は非常に興味深いものであり、動物の生殖における神経の役割を解明するにあたって重要な発見だと言えるでしょう。
またクラウゼ小体にのみ作用する薬を開発することができれば、性障害に悩む人々の性的動機や快楽を励起させる次世代の精力剤が開発できるかもしれません。
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