スクリーンショットをとると記憶が劣化する

授業のスライド、気になるレシピ、乗換案内の画面、あとで読みたいSNSの投稿。
「今は時間がないから、とりあえずスクショ」——スマホを持つ人なら、ほぼ毎日やっている操作ではないでしょうか。
こうして撮りためた写真やスクショは、平均的なスマホに約2000枚も眠っているとされますが、その多くは開かれないまま沈んでいきます。
実は心理学の世界では以前から、「写真を撮ると、撮った対象の記憶がかえって悪くなる」という現象(写真撮影による記憶障害効果)が知られていました。
美術館で作品を撮影して回ると、撮った作品ほど思い出せなくなる、という研究が出発点です。
より身近な例は電話番号でしょう。
スマホに連絡先を登録するのが当たり前になってから、他人の電話番号を暗記する人はほとんどいなくなりました。
「調べればすぐわかる」情報を、脳はわざわざ抱え込もうとしないのです(グーグル効果)。
そして近年、この「撮ると忘れる」現象は、カメラ撮影だけでなくスクリーンショットでも起こることが報告されはじめていました。
ただ、ここで一つの反論が成り立ちます。
「忘れても、損とは限らないのではないか」というものです。
情報を端末に預ければ、脳はそれを覚えておく労力を節約できます。
この仕組み(認知的オフロード)が働いているなら、浮いた脳のリソースは別の記憶や作業に回せるはずで、「スクショした内容を忘れる代わりに、他の何かが捗る」というトレードオフが成立していてもおかしくありません。
もしそうなら、スクショは記憶の損失ではなく、賢い分業だということになります。
今回の研究チームが確かめようとしたのは、まさにこの「見返り」が本当にあるのかどうかでした。
チームは合計892人の大学生を対象に7つの実験を行い、参加者自身のスマホで主に美術作品の画像を「ただ見る」か「スクショを撮る」かしてもらったうえで、後から記憶テストを実施しました。
テストの基本は、そっくりな3枚の絵の中から、さっき見た1枚を選ぶ形式です。
結果は、はっきり出ました。
スクショを撮った画像は、ただ見ただけの画像より、明らかに思い出せなくなっていたのです。
この差は7つの実験すべてで確認されました。
ある実験では、ただ見た画像の正答率が約88%だったのに対し、スクショした画像では約61%まで落ち込みました。
一見すると「61%ならまだ覚えているほうでは」と映る数字ですが、このテストは3枚から1枚を選ぶ形式のため、でたらめに答えても33%は当たります。
まぐれ当たりの33%を差し引いてみと、記憶の実力で正解できた分は、ただ見た場合が55ポイントなのに対して、スクショした場合が28ポイントにまで押していました。
スクショをしただけで、覚える力はちょうど半分に削られていたのです。
では、肝心の「見返り」はどうだったのでしょうか。
もしスクショが省エネ戦略として機能しているなら、浮いた力はどこかの成績に現れるはずです。
チームは考えられるメリットを片っ端から検証しました。
まず、スクショの直後に画像とは無関係の計算問題を解かせてみました。
頭のリソースが浮いているなら、計算がはかどるはずです。
結果は、差なし。
次に、スクショのあとに「二枚目のセット」として新しい画像を見せ、そちらの記憶が良くなるかを調べました。
前の情報を手放した分、新しい情報が入りやすくなるかもしれないからです。
ところが、こちらもほぼ差なし。
利点らしきものが顔を出したのは、条件を何重にも組み替えた先の一回だけです。
題材を美術作品からモノクロの日用品や動物の絵に差し替え、思い出す順番を変え、正解の基準まで甘くして、ようやく小さな差が見えたという条件でした。
こうして収支をまとめると、スクショという取引は「記憶の劣化だけが残り、得はほぼゼロ」。
論文では「スクリーンショットは相当な記憶コストを課す一方、それを補う利益は提供しない」と結論づけられています。
ではスクリーンショットをした瞬間、私たちの頭の中で何が起きているのか。



































