「本気じゃなかった」と言い訳してしまう心理

やってみたい仕事の募集や、自分の好きな創作活動で作品募集を見つけたとき、やっつけ仕事で応募して不採用だったり、期限に間に合わなくてそもそも応募しなかった。
そんな経験のある人は、意外と多いかもしれません。
そんな風に、私たちは自分が本心からやりたいことに対してであっても、なぜか真剣に取り組むことを避けてしまうことがあります。
そして上手く行かなかったら、「今回は別に本気を出していなかったから…」と考えます。
実はこうした行動は、心理学では「セルフ・ハンディキャッピング(Self-Handicapping)」と呼ばれていて、広く研究されている心理現象です。
セルフ・ハンディキャッピングとは、自分の能力が他人や自分自身に低く評価されるのを避けるために、あらかじめ「うまくいかない理由」を作っておく心の防衛戦略のことです。
たとえば「試験前に遊んでいたから」「他にも忙しくて十分な時間が取れなかった」といった言い訳がそれにあたります。そうすることで失敗しても「自分の実力のせいじゃない」と思えるため、プライドや自己評価を守ることができるのです。
この戦略は一見、自尊心を守るうえで役立つように思えるかもしれませんが、問題はその代償です。こうした心理は、失敗したときの心のダメージを和らげる一方で、成長や成功のチャンスそのものを自ら遠ざけてしまう危険性があるのです。
アメリカの心理学者ジョセフ・フェラーリ氏とダイアン・タイス氏の研究チームは、先延ばし(Procrastination)という日常的な行動が、セルフ・ハンディキャッピングの一種として機能しているのではないかという仮説を立て、興味深い調査を行いました。
先延ばしとは、やるべきことを後回しにする行動を指します。私たちはなぜか重要性の低い課題を優先して、重要な課題に取り組むのをためらうときがあります。研究チームは、この先延ばしこそが「言い訳を作る行動」になっている可能性があると考えたのです。
実験では、大学生の参加者たちに「あなたの数学能力を測る重要なテストがあります」と伝え、その準備時間として15分間を与えました。ただし、その時間の使い方は自由で、練習問題に取り組むこともできれば、部屋に用意されたビデオゲームやパズルなどの「楽しい気晴らし」に時間を費やすこともできるという設定にしました。
そして、どれだけの時間を練習にあて、どれだけの時間を遊びや雑事に費やしたかを記録しました。
さらに別の条件として、同じような課題を「評価されるテスト」ではなく「ただの楽しいゲーム」として紹介したパターンも用意しました。つまり、テストが“本気で評価される場”なのか、“気楽な遊び”なのかによって、人の行動がどのように変わるのかを比べたのです。
このユニークな実験によって、心の中にある「自己評価を守りたい」という無意識の戦略が、どのように行動として表れるのかを明らかにしようとしたのです。