「場所はわかる」のに「どこにあるか」がわからない
DTDは、脳損傷や神経疾患によって後から方向感覚を失う症状とは異なります。
幼少期からナビゲーションに強い困難があり、その原因となる明確な後天的脳損傷がないことが特徴です。
DTDという名称を用いた最初の症例は、2009年にカナダ・ブリティッシュコロンビア大学の神経科学者によって報告されました。
研究対象となった女性は、感覚機能や知的能力には問題がありませんでしたが、生涯にわたって道を覚えたり目的地へ移動したりすることに苦労していました。
現実空間と仮想空間を使ったテストから浮かび上がったのは、「認知地図(cognitive map)」を作ることの難しさでした。
認知地図とは、頭の中にGoogleマップのような映像が浮かんでいるという意味ではありません。
例えば「自宅の近くに駅があり、その先にスーパーがあり、公園は反対方向にある」といった、場所同士の位置関係をまとめた頭の中の空間情報です。
私たちはこの情報があるため、いつもの道が使えなくても別の道を選んだり、違う方向から目的地へ向かったり、道を間違えたあとにルートを修正したりできます。
ところがDTDの人の一部では、この「場所と場所を結びつける地図」を作ることが特に難しいと考えられています。
15件の実証研究をまとめた系統的レビューでも、DTDにおけるナビゲーションの問題は、主に認知地図の質と関係していました。
興味深いのは、ランドマークそのものを認識する能力は比較的保たれていることです。
つまり「あの建物は知っている」とわかっていても、「その建物が自分のいる場所から見てどちらにあるのか」がわからないことがあるのです。

































