音波を動力源にする

機械は、小さくしていくとどこかで行き詰まります。
動かすにはモーターが要り、モーターには磁石やコイルや回転軸が要ります。
どれひとつ欠かせないうえ、どれもある大きさから先へは縮みません。
壁を破るには、部品そのものを減らすしかないのです。
そこで研究チームが選んだのは、音でした。
音の正体は、規則正しく震えている空気です。
押されて詰まり、引かれてゆるむ動きが、次々と隣へ伝わっていきます。
この震えをエンジンのピストンを動かす動力のように使えれば、小さな機体を押し上げることもできるはずです。
そのピストンなら、すでに目の前にありました。
空になった飲み物のビンの口に息を斜めに吹きかけると、低くて澄んだ「ボーッ」という音が返ってくる現象です。
音が届くと、口をふさいでいる空気のかたまりが、押されて奥へ沈み、引かれて手前へ戻ります。
シリンダーを上下するピストンと、やっていることは変わりません。
しかもこのピストンは、削り出す必要も組み付ける必要もありません。
空洞と口さえあれば、そこにある空気が勝手にピストンになり、積むべき部品は、ついにゼロになります。
そこで研究者たちはビンにあたる中空の構造を3Dプリンターで作り、スピーカーの前に置きました。
すると、共鳴が起きた瞬間に、口から空気が勢いよく噴き出しました。
鳴るだけだった空洞が、小さな噴射口に変わったのです。
実際、空洞に煙を詰め、1秒間に5000コマを写す高速カメラで狙うと、その瞬間が捉えられました。
音を鳴らした途端、口から白い筋がまっすぐ立ち上がり噴出方向に出ていったのです。
この結果は、直感的には奇妙にも思えます。
ピストンは、押すのと同じだけ引きますし、空気も噴き出したぶんだけ吸い戻されているはずです。
それなら行って来いで、力は何も残らないことになります。
しかし音は方向について必ずしも対称ではありません。
たとえばろうそくの火は、息を吹きかければ一発で消えます。
同じ口で吸い込んでも、炎は少し揺れるだけで消えません。
吐いた息は細い束になってまっすぐ飛ぶのに、吸う息はまわり中からじわりと集まってくるだけだからです。
動かした空気の量は同じでも、吐くときと吸うときでは、届く先がまるで違います。
空洞の口で起きているのも、これと同じです。
出ていく空気は細い束になって前へ飛び去り、戻る空気はまわりから薄く広く流れ込みます。
一度飛び去った勢いは、吸い戻す動きではもう取り返せません。
取り返せなかったぶんが、空洞を押し返す力として残ります。
今回の研究では、この力の大きさが空洞の容積にきれいに比例することが示されました。
130デシベルの強い音を当てた実験では、空洞の容積が1立方センチメートル増えるごとに、4.5ミリグラムほどの物を持ち上げられる力(約44マイクロニュートン)が上乗せされていきました。
力を決めているのは、容積と口です。
空洞そのものの形は、球でも立方体でも円筒でもかまいませんでした。
ただまっすぐな筒がいちばん強く、すぼまった口や広がった口では弱くなりました。
そして空洞は、小さく作るほど共鳴する音が高くなっていきました。
条件が容積と口だけなら、特別な部品も精密な加工も要りません。
空きビンやクリスマスツリーの飾りのような日用品も、音さえ当てれば同じように空気を噴き出します。
誰も気づかなかったのは、その力があまりに小さいからでした。


























