推力は自重の5倍

あとは、この噴射口を飛べるほど軽く作るだけです。
研究チームが設計した飛行体は直径1ミリに満たない空洞を3つ備え、全体の重さは150マイクログラムしかありません。
共鳴するのは40キロヘルツ、人には聞こえない高さの音です。
そして256個の超音波素子を並べた装置で、その音を空中の一点に集めます。
機体は真上にだけ動けるよう細いピンに沿わせて、その一点に立たせました。
すると音を出した瞬間、機体は上へ加速しました。
最初の10ミリ秒で一気に速度を上げ、そのまま高さ12ミリまで上昇しました。
焦点での音の強さから見積もると、このとき生み出された推力は自分の重さの4.9倍にあたります。
ただし、高く上がるほど機体は音の焦点から離れていきます。
やがて7ミリの高さで力と重さが釣り合い、機体はそこで静止しました。
もっとも、音を当てられて宙に留まる姿だけを見れば、音の圧力で下から押されているようにも見えます。
ところが上下逆さまにして同じ音を当てると、機体はまったく上がりませんでした。
計算でも、音が機体を直接押す力は、空洞の噴流が生む推力の千分の一ほどしかありません。
浮かされていたのではなく、機体は自分で空気を噴いて上がっていたのです。
同じくらいの大きさの磁石式の飛行体と比べると、重さは1000分の1しかありません。
磁石を仕込む必要がないぶん、使える材料もほとんど選ばずに済みます。
音で動かす利点は、軽さだけではありません。
共鳴する高さの違う空洞を3つ積んだ数センチのボート試した場合では、スピーカーの音を切り替えるだけで、前進と左右の旋回を選び分けました。
磁石は広い範囲に同じように効いてしまいますが、音なら高さを変えるだけで宛先を指定できます。
機体ごとに反応する高さを変えておけば、同じ空間にいる複数の機体を1台ずつ動かし分けられるはずです。
また飛ぶ以外にも、柔らかい素材に共鳴する高さの違う空洞をいくつも埋め込めば、音に応じて特定の部分だけを曲げたり震わせたりできるはずだと研究チームは考えています。
もしかしたら未来の工場は、金属が擦れ合う機械音に加えて超音波も響き渡っている場所になっているかもしれません。


























