犯人はすぐ隣の渦か

十角形の成り立ちには、有力な容疑者がいます。
十角形のすぐ隣、少し赤道寄りの南緯55度あたりに、直径約4000kmの渦を巻く雲のかたまりが、2023年から2025年にかけて観測されています。
十角形の輪は、この渦に近い側で最もくっきりし、渦から遠い側ではぼやけています。
渦のそばだけ、模様が濃いのです。
そこで研究チームは、コンピューターの中に土星の風の帯を再現し、そのそばに渦を置いてみました。
すると渦に引っぱられるように、風の帯がよれて曲がりました。
しかも条件によっては、その曲がりが帯に沿って等間隔に並びました。
折れ曲がりが等間隔に並べば、それはもう多角形です。
渦が多角形の作り手になりうることは、計算の上では確かめられたことになります。
ただし風の流れだけを追った単純な計算なので、観測どおりの十角形そのものは、まだ再現できていません。
ヒントは、北極の六角形にもあります。
六角形が見つかった当時、そのそばにも渦がありました。
サンチェス=ラベガ氏はサイエンスアラートの取材に対し「1980年に六角形が発見されたときも同じことが起こりましたが、その後、近くの渦は消え、六角形だけが残りました」と述べています。
渦は最初のひと押しをするだけで、あとは模様が独り立ちするのかもしれません。
論文も、渦が十角形を生んだ可能性は残っており、渦が消えたあとも十角形は生き残るかもしれないと記しています。
もっとも、渦とはまったく別のきっかけで風の帯が曲がりだした、という筋書きも消えたわけではありません。
はっきりしているのは、この先の数年が見どころだということです。
土星の季節は1つが約7年半と長く、南半球はいま春から夏へ向かっています。
南極側に届く日差しはこれから強まり、サンチェス=ラベガ氏によれば、十角形のある緯度では2032年ごろに最も強くなります。
日差しの変化がこの模様のでき方に関わっているのなら、そのころ十角形はいっそうくっきりしているはずだ、というのが同氏の見立てです。
同氏は「今後数年で不安定になって崩れるのか、それとも日差しが強まるにつれて、より安定した頑丈な形になるのか」を見極める必要があると述べています。
六角形は、発見された時点ですでに完成した形をしていました。
十角形では、薄かった輪郭が年を追うごとに濃くなっていく途中を、いま観察できているのです。
巨大な惑星の大気に多角形が生まれる現場を見られる、めったにない機会です。






























