大きな息子を生むリスクは回収できるのか?

なぜ息子は、母親を危険にさらしてまで大きく生まれるのか?
その答えは、繁殖の成功率にありました。
大人のオスがメスより大きい種では、体の大きいオスが繁殖において圧倒的に有利になることが知られています。
一方、メスの繁殖の成功は体の大きさにあまり左右されません。
大きなメスも小さなメスも、生涯に産む子の数はそれほど変わらないからです。
そのため同じ量の栄養を注ぐなら、息子に注いだほうが、孫の数として返ってくる期待が大きくなります。
この考え方自体は50年以上前からあり、提唱した2人の名をとってトリヴァース=ウィラード仮説と呼ばれています。
ただしこの理屈が数えていたのは、エネルギーと見返りの孫の数だけでした。
比較も「妊娠と子育て時期」と「大人になったとき」というかなり離れた部分で行われます。
なにより既存の考えには、息子を産むときに母親と赤ちゃんが負うお産のリスクが、勘定に入っていなかったのです。
そこで研究者たちは、50年前の計算に、この出産の場での支払いを書き加えたものを新たに「高くつく息子(costly son)」仮説として提唱しました。
ただ研究者たちは、この見落とされていた費用を含めても、なお息子を大きく生むことはリスクと釣り合っていると述べています。競争の激しい世界では体が小さいオスが子供を持てる望みはかなり低いからです。
また研究が正しければ、人類のお産の難しさは、脳が大きくなってから始まったわけではないことになります。
というのもアウストラロピテクスなど初期の人類は、現代人よりオスとメスの体格差が大きかったと考えられています。
大人の体格差が大きい種ほど赤ちゃんの体格差も大きいという今回の結びつきをあてはめるなら、アウストラロピテクスのオスの赤ちゃんもまた、メスより大きく生まれていた可能性が高いことになります。
脳が今ほど大きくなる前から、人類のお産はすでに難しかったのかもしれません。
現代の医療にとっても、この視点は他人事ではありません。
栄養の豊かな環境では、母親の肥満や妊娠糖尿病が胎児を大きく育てます。
そこに男の子という条件が重なれば、限界の向こう側へ押し出される赤ちゃんは、さらに増えることになります。
赤ちゃんが何グラムかとは別に、男の子か女の子かも数に入れるべきだというのが、この研究が医療に向けて示した結論です。
もっとも、性別ごとのお産のデータが揃っているのは家畜や飼育下の動物に偏っていて、野生の哺乳類のことはまだほとんどわかっていません。
それでも、ヒトの出産の難しさを二足歩行と大きな脳だけで説明する時代は、終わりつつあります。
論文は次の課題として、野生のサルなどから性別ごとの出産の記録を集めることと、母親が胎盤を通してどれだけ息子に注いでいるのかを調べることを挙げています。

























