香りは体をだまして限界を超えさせる

梅干しを思い浮かべただけで、口の中に唾がわいてくることがあります。
体は、食べ物が口に入る前から、これから来るものに備えて動き出します。こうした先回りの反応(頭相反応)は、食べ物の姿や匂い、ときには想像だけでも起こります。
研究チームは、ダークチョコの香りでも同じ種類の先回りが関わった可能性を考えています。
鍵になるのは、これまでチョコを食べてきた経験です。
チョコを食べるとき、人は香りといっしょに、濃厚な味わいや、食べたあとの満足感を経験します。
研究チームの説明では、とくにダークチョコの香りは、濃厚で苦く、満腹感のある食べ物を連想させるといいます。
香りと満腹感が何度もセットでやってくるうちに、香りそのものが「これからお腹が満たされる」という合図に変わります。
「いわば体をだまして、満腹を先取りした状態に入れてしまいます」とナハルディン氏は説明します。
研究チームは、頭の中の天秤を「やめる」側へ傾けていた空腹感が、香りによって和らいだのではないかとみています。
ただし甘いミルクチョコは、別の理由で回数が増えたのかもしれません。
こちらは運動前の空腹感を水より下げなかったのに、回数は9回増えました。ナハルディン氏は、甘い香りが心地よい「ごほうびの合図」となり、運動を続ける後押しをした可能性を挙げています。
もっとも、体の中で実際に何が起きたのかは、まだ推測の段階です。
今回の実験では、唾液やホルモン、脳の活動は測っていません。
また効果が空腹感の低下や香りの心地よさによるものかどうかは、今回の研究では確かめられていません。
それでもチョコの香りのあるなしで、その日のトレーニングで繰り返せた回数が増えたという点は見逃せないでしょう。
研究チームは、食事をとる時間帯を制限している人や減量中の人、試合前に食事を調整する競技者などへの応用を考えています。
運動前に食べると胃のもたれや不調を招くこともありますが、香りなら食べ物を胃に入れずに済みます。
論文でもチョコの香りを、食べ物を口にせずに空腹時の筋トレを支える方法の候補と位置づけています。
しかも、香りを嗅ぐのは1回30秒で、それを運動前とセットの合間に繰り返すだけでした。同じ匂いを嗅ぎ続けると慣れが生じるため、短く区切ることが、その慣れを抑えた可能性もあると論文は述べています。
では、この効果はチョコレートに限られるのでしょうか。
ナハルディン氏は、チョコに限った効果とは考えていないものの、チョコは食べる喜びと強く結びついた食品だと説明しています。
ほかにも、食べたあとに満足感が残る食べ物なら、同じ反応を起こせるかもしれません。
ただし、本人にとってなじみがあり、好ましい、少なくとも不快ではない香りであることが重要になりそうだといいます。
朝食を抜いたままジムへ向かう朝、最後の1回を支えるのは、胃の中身だけでなく、鼻から届く香りなのかもしれません。





















