・他者の痛みに共感するプロセスは、脳内の認知神経回路の思考過程を必要とする
・実験では、自分が痛みを感じるときの脳波と、他者が痛みを感じるのを見るときの脳波は違うことが判明
・他人に共感する際に働く脳の活性パターンは、心理的努力を必要とする「メンタライゼーション」と一致する
友人や家族、パートナーが苦しんだり、痛みを感じているのを見ると、あなた自身もその痛みを自分のことのように感じるでしょう。こうした他者の心理状態や痛みへの共感能力は、社会における人間関係を協調的に保つためには必要不可欠です。大切な人と感情を共有することで、より深い絆を感じることができるでしょう。
しかし、コロラド大学ボルダー校にある認知神経科学の研究チームによると、他者に共感するプロセスは、脳内の認知神経回路によることが分かりました。コロラド大学によって行われた研究の詳細は’eLife’上にて掲載されています。
https://elifesciences.org/articles/15166
これまでの研究では、私たちが他者の痛みに共感する際に脳内のどの領域が働いているのかは完全に理解されていませんでした。それを調べるには、脳に生じている相互作用があまりにも複雑すぎるのです。
これまでは、自身の身体的な痛みの経験時に活性化する脳領域と、同じ場所が働くのではないかと考えられていました。しかし、今回の研究では、他者に共感する際に活性化する脳領域と、私たちが自身が痛みを感じている際に活性化する脳領域とはまったく別物であることが分かったのです。
研究を行ったコロラド大学認知心理学研究員のトール・ウェイガー氏が行った実験方法は次の通りです。まず被験者の前腕や足に熱刺激を与えることで、脳内のどの領域に反応が見られるかを観察します。そして今度は反対に、だれか他の人が同じように痛みの刺激を経験している様子を被験者に見てもらい、そのときの脳波の反応を調べました。また、このとき被験者は、他者が痛みを感じているのを見ている間、その痛みが彼ら自身の体に起こっているとイメージするように指示されています。
すると、調査結果では、自分が痛みを感じる脳領域と他人の痛みに共感する脳領域とは、別々の場所であることが判明しました。つまり、痛みを検知した被験者の脳波を観察したところによると、その脳内パターンは実際に痛みを経験しているときの脳内パターンとは重なり合わなかったのです。そのかわり、痛みに共感している際に活性化する脳領域は、私たちが他者の視点に身をおくときに反応する領域と同じであることが分かりました。
そして、ウェイガー氏の説明によれば、その脳内パターンは「メンタライゼーション」と呼ばれる思考過程と一致するとのこと。メンタライゼーションとは、他者の思考や意図をイメージングする能力のことを言い、これによって他者の行動や振る舞いを願望や目的、理由といった枠組みに当てはめて理解することが可能になるのです。メンタライゼーションは私たちの心理活動にとって必要不可欠なものであり、相手がどう思っているかを分析し、予測することに究めて有効に機能しています。
つまり、他者の感情や痛みへの共感能力は、人間に本能的で自動的なプロセスなのではなく、他の人の視点に身を置くという努力的かつ熟慮的な過程を必要とするのです。
他者の痛みに共感できることは、私たち自らが努力して相手に身を重ねようとする結果起こるもので、人間だから自然とできるようなことではないのです。ですから、他者に共感できる人は、相手に親身になって接してくれる心優しき人なのでしょう。
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/8731
via: dailycamera / translated & text by くらのすけ

























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