- 虫から人まであらゆる左右対称な動物の共通先祖が発見される
- 発見はエディアカラ紀初期の地層のくぼみに着目することからだった
- エディアカラ生物群は絶滅せず、現代につながっている
左右対称の見た目は、多くの動物が当たり前のようにとっている基本構造ですが、生命進化の最初から存在していたわけではありません。
エディアカラ紀(6億年~5.5億年前)に誕生したと思われる、地球に最初の多細胞生物は非常に簡単な構造をしており、体には左右が存在せず、背腹の違いもありませんでした。
口と肛門の区別(前後軸)もなく、チューブ状あるいは多孔質の粒状の形態をとっていたと思われます。
左右対称の構造は無数の進化候補の中から選ばれ、獲得された形質なのです。
これまで進化生物学者たちは、さまざまな化石の分析により、私たち左右対称動物の共通祖先は小さくて単純な形をした生命であると予想していました。
しかし、長年にわたる化石の発掘にもかかわらず、そのような動物の化石は発見されていませんでした。
ですが今回、アメリカの研究者たちによって、最古の左右対称構造をした生物(Ikaria wariootia gen)の化石が、エディアカラ紀初期(5.5億年前)の地層から発見されたのです。
今回の発見は、ほとんどが絶滅したと考えられていたエディアカラ紀の生物がの一部が生き残り、ミッシングリンクを埋め、現在まで続く進化の道筋を辿ったことを証明します。
しかし、なぜ私たちの先祖は左右対称な体を持つようになったのでしょうか?
研究内容はカリフォルニア大学のスコット・D・エヴァンズ氏らによってまとめられ、3月23日に学術雑誌「PANS」に掲載されました。
https://www.pnas.org/content/early/2020/03/17/2001045117
左右がない動物から左右がある動物への進化
これまで、多くの進化生物学者たちによって、左右を持つ生物の共通の祖先の化石が探索されてきました。
左右対称動物の先祖を探すことには非常に深い意味があります。
なぜなら、左右対称の構造を獲得したことによって、動物の体に前後・左右・背腹の3つの軸が定まり、効率的に移動するための基本行動をとれるようになるからです。
左右の確定は、動物の運動とは切っても切れない関係にあるのです。
また、どのような生物が最初に左右軸を確定させたかを調べることは、虫から人間まで、多くの動物の起源を探ることに繋がります。
しかし、エディアカラ紀初期にあたる古い地層からみつかる動物化石はどれも左右が存在しない球体やチューブ型、ディスク型の動物化石ばかりでした。
ですがある日、カルフォルニア大学のスコット・エヴァンズ氏は、調査していたエディアカラ時代の地層に奇妙な楕円形のくぼみがあることに気付きました。
通常ならば、これらくぼみは石や砂利の痕跡だと判断されます。
調査されていた地層もエディアカラ紀の中でも最も古い底の層であり、あまり複雑な構造をした生命は期待できませんでした。
ですがエヴァンズ氏は、その「くぼみ」の何かが気にかかり、詳細な測定を行うことに決めました。
結果は驚くべきものでした。
発見されたくぼみを3Dスキャンした結果、どれも数ミリの滴状の形状をした何かによって掘り進められたことがわかったからです。
また、さらなる分析により、くぼみを作った主の体には左右対称な「V」字型の突起が存在し、「I運動」として知られる、虫のように体全体の筋肉を収縮させて動いていたこともわかりました。
前後・左右・背腹の3軸を最初に供えた生命を発見した瞬間です。
この小さな芋虫のような生命から、虫も人間も、全ての左右対称な見た目を持つ動物が進化したのです。