ポリオウィルスと生ワクチン
ポリオウィルスは、腸管から脊髄に入り「ポリオ (急性灰白髄炎) 」と呼ばれる病気を引き起こします。通常は胃腸炎のような症状で済みますが、脊髄に入り込むことから重篤な場合には生涯治らない麻痺を身体に残すため恐れられています。
このウィルスは人の唾液や糞便を通じて広がっていきます。ノロウィルスでも似たような経路で感染の拡大がありましたが、ポリオウィルスも糞口経路で感染が拡大します。
ポリオウィルスは先史時代から存在する古いウィルスと言われていますが、20世紀になってから世界各地で大流行を起こしました。1950年代から60年代にアメリカでは3万人近い感染者が出て6000人近くが死亡したと言われています。
当時は映画館が閉鎖され、集会や会合はなくなり、都市部の住人は山間部のリゾート地へ逃げ出したと言われていて、現在のコロナの混乱に似た状況が発生していました。
このポリオの大流行を止めたのがポリオワクチンです。日本でもポリオは大流行していましたが、ポリオウィルスの生ワクチンを使って解決した歴史があります。
現在野生のポリオウィルスはほぼいなくなったと言われていて、その被害もなくなっています。
しかし、このポリオワクチンでは、ワクチンの接種によって稀に麻痺の症状が出てしまう人がいました。それが生ワクチンの問題です。
そして、この変異して病原性を取り戻したワクチン由来のウィルスは糞便を通じて再び広がってしまうという事態を引き起こしたのです。
主にこの被害にあっているのはアフリカやアジアの貧しい地域です。ここでは予防接種を受けることができた人と、未だに受けれていない人たちがいます。
野生のポリオウィルスはほぼ撲滅されたのに、ワクチン由来のウィルスが予防接種を受けていない人たちに広まってしまうということが起きたのです。
不活化ワクチンの利用
こうした事情で、ポリオワクチンは現在不活化ワクチンへ切り替えている国がほとんどです。ただ、貧しい国では経口で数滴飲むだけでいいポリオ生ワクチンの利用を完全にやめることが難しいのも実情と言われています。
また、こうした背景から、現在開発されているコロナウィルスのワクチンも、不活化ワクチンです。
そのため実用化された後に、生ワクチンに起きるような問題を心配する必要はないでしょうが、1つの病気を封じ込めることの難しさを示しているといえるでしょう。