「経験」の遺伝を確かめるため、まず親をイジメる
古い生物の教科書には、親が後天的に「経験」した出来事は、遺伝しない。
という記述があります。
親が膝に矢を受けても、生まれてきた子どもの脚は不自由にはならないのは、この「経験は遺伝しない」という法則が存在するからです。
ですが、近年の遺伝学の成果により、必ずしもそうとは言い切れないことが明らかになってきました。
哺乳類(マウス)でも親のストレスが子どもの気性に大きく影響するという結果が出始めたのです。
しかし反論する意見もありました。
マウスのような哺乳類は子育てを行い、親子の綿密な関係性が築かれるため、親が受けたストレスは、親の行動を通して子どもに影響を与えずにはいられないという意見です。
そこで今回、アメリカのマウントサイナイ医科大の研究者たちは、論争に決着をつけるために、新たな実験を行うことにしました。
実験はまず、マウスを慢性社会的敗北ストレス状態にすることからはじまります。
これはマウスの縄張り意識を利用した手法です。
体格の優れた攻撃的なオスのマウスの檻の中に、体格の劣る弱い他のオスのマウスを入れて故意に「イジメ」を繰り返させます。
すると弱いマウスは一種の「うつ状態」に陥り、引きこもりや快感喪失を起こすほか、好物である砂糖水への興味を失うといった、大きな精神的変質を起こします。