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psychology

30分の心理プログラムで大学1年を乗り越える?スタンフォード大の大規模検証

2025.09.30 21:00:48 Tuesday

アメリカのスタンフォード大学(Stanford)を中心にした研究チームが、全米22大学の新入生26,911人を対象に大規模な調査を行った結果、大学入学前にたった10~30分の簡単なオンライン・プログラムを受けるだけで、大学1年目の修了率が高まることが明らかになりました。

このプログラムの特徴は、大学生活で誰もが感じるような不安や孤独感が、「時間が経てば自然と和らいでいくものだ」と学生自身が気づけるようにデザインされ所属不安の解消を目指している点です。

なぜこのような短くシンプルな心理的プログラムが、学生の大学生活を大きく左右する結果につながったのでしょうか?

研究内容の詳細は2023年5月4日に『Science』にて発表されました。

Where and with whom does a brief social-belonging intervention promote progress in college? https://doi.org/10.1126/science.ade4420

せっかくの居場所から離れてしまう理由

せっかくの居場所から離れてしまう理由
せっかくの居場所から離れてしまう理由 / Credit:Canva

みなさんは、自分が本当に入りたかった学校や、ずっと憧れていた環境に入ったのに、「自分はここには向いていないのかも…」と感じてしまった経験はないでしょうか?

新しい環境に飛び込むことは誰にとっても大きな挑戦ですから、実際にはこうした悩みを抱えている人は少なくありません。

特に大学というのは、これまで自分が経験してきた中学校や高校とはまったく違う環境です。

勉強の仕方や生活のペースが大きく変わるため、最初のうちは戸惑ってしまうことも珍しくありません。

実はアメリカでは、大学に合格して喜びながらも、1年経つ頃には約5人に1人(およそ20%)の学生が大学を去ってしまうというデータがあります。

この数字を見ても分かる通り、多くの学生が「大学でうまくやっていけるかどうか」という問題にぶつかり、結局そこから抜け出せずに退学してしまうケースが後を絶ちません。

そうなると、頑張ってきた努力が水の泡になるだけではありません。

大学に通っていれば得られたはずの知識やスキルが手に入らず、その後の人生や将来の夢にも大きな影響を与える可能性があるのです。

これは本人にとっても社会全体にとっても、大きな損失と言えるでしょう。

では、どうしてこんなにも多くの学生が新しい環境でうまくいかずに挫折してしまうのでしょう?

それは「新しい場所に慣れる」には予想以上に時間とエネルギーがかかるからです。

たとえば、自分の家を離れて新しい街で暮らすと、ホームシックになることもありますよね。

また、新しいクラスで友達を作ろうと思っても、なかなかうまく話せないこともあるでしょう。

大学では、授業のやり方や勉強のレベルも高校までとはまったく違います。

先生とのコミュニケーションもうまく取れず、「自分だけが置いていかれている気がする…」と感じる人もいます。

こういった悩みはどんな学生でも一度は経験することですが、それでも自分のような境遇の仲間が周囲に少ないと、「自分はやはりここにいてはいけないんだ」と確信してしまうこともあるのです。

こうした「自分が本当にここにいてよいのか?」という不安感は、心理学の分野では「所属不安」と呼ばれています。

スタンフォード大学の心理学者、グレゴリー・ウォルトン教授たちは、この「所属不安」を軽くするための短時間のプログラムを開発し、その効果をいろいろな大学で科学的に検証してきました。

こうした取り組みは「社会的所属感の介入」と呼ばれています。

このプログラムでは、先輩たちが自分の経験を書いた文章を新入生に読んでもらいます。

内容は、「最初は誰でも不安だったけれど、時間が経つにつれて自然と馴染んでいった」というものです。

さらに新入生自身にも、同じような不安を感じる後輩に向けて、「最初のうちはみんな不安だけれど、だんだん状況は良くなるから大丈夫」と励ましのメッセージを書いてもらいます。

これは「不安なのは自分だけじゃないんだ」と安心してもらうための工夫です。

実際にこの短いプログラムを試した大学では、目に見える成果も確認されています。

例えば、アメリカのある大学では、大学の中で少数派だった黒人学生の成績(GPA)が上がり、白人学生との成績の差を半分ほど縮めることができました。

また別の大学の理系学部では、男性が多い環境で居場所を感じにくかった女子学生の成績が向上したケースも報告されています。

こうした実績からも、この「社会的所属感の介入」が学生の心理的な負担を軽くし、本来持っている実力を発揮する手助けになりうることが期待されています。

では、今回ウォルトン教授らは具体的にどのような介入を行い、どんな成果を得たのでしょうか?

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